コラム 2018 No.17

思ったよりごまかしの多いサステナビリティ
 Sourcing Journal 10/30/2017

 

ワシントンDCで行われたTextile Exchangeのサステナビリティ会議で
Sourcing Journalの創始者で発行責任者のEdward Hertzmanが次のように述べました。

 「サステナビリティとくれば、いくつかの会社は手を上げて、                          
布地の廃棄が最小になるように工夫しているとか、
昔ながらの方法でデニムを作っている、または特に思い当たらない場合は、
waterless(水を使わない)という表示ラベルを付けているとか言ってくるでしょう。

テキスタイル・エクスチェンジが主張していることにもっと注意を向けないとあなたのサプライチェーンは信用を失って、成り立たなくなるかもしれませんよ」と警告しています。

 

例えば次のような例を挙げています。

バングラディッシュでのこと、とある工場では古めかしい機械で大手ブランドのwaterlessデニムを作っていた。
Hertzman氏がどの位早く出荷できるのか聞いてみると、その工場の責任者は「このラベルを貼ればすぐ出せますよ」と答えた。

サステナブルの意味のラベルをどこの承認もなく勝手に貼っているということだ。
中国でのこと、ある工場では、いわゆるサステナビリティ・ブランド品を作っていた。その製品は、WholefoodsやNordstromのような店に並べられている。

管理は香港の代理店が行っているが、オーガニックコットン混用の製品で認証はない。
彼らの工場でどのようにオーガニックコットンの供給を受けているのか、Hertzman氏が聞いてみると、代理店の担当者は「だから私たちは製品にラベルを付けるように指示しているんですよ」と答えた。

オーガニックコットンではない偽りを、自分たちの安全のためにラベル表示していると云う訳だ。
工場に行って見ていると彼らの言うwaterlessのラベルをペタペタ貼っていた。どの工程も一事が万事ということだった。

Coyuchiのようなブランドは、確かにサステナブルが、「売り」だからきっちりやっている。

「消費者がこの信ぴょう性について問い質して来ても、一つ一つ検査していれば、あとはブランドとして信用を示せばいいことだ」とOrganic lines companyのCEOのEileen Mockus氏は言います。

 サステナビリティは、倫理の問題かまたは単なる宣伝の道具なのか?

ブランド(メーカー)がサステナビリティに対してどれ程真剣か、実際に手立てをしているかなど簡単に見られる時代になって来ています。
今の世の中、ソーシャルメディアが張り巡らされているから、嘘はすぐにバレてしまいます。それで悪い評判がたてばブランドの致命傷になるという時代です。

ブランドがサステナビリティに真剣に取り組んでいるかどうかに限らず、実際のところオーガニックコットンの栽培にどれ程のコストが掛かっているか、工場の浄水設備にどれ程のコストが掛かっているか、皮製品のダメージ加工にどれだけのコストが掛かっているかなど一般の人は知る由もありません。

しかし小売り市場は、サステナブルなやり方によって高くなった仕入れ値には決して寛容とは言えません。小売店市場の人々の頭にあるのは、仕入れ値ダウン、利益アップの事ばかりです。

エシカルでありたいエシカルであるべきだと主張しながら、利益を損なうエシカルに反することには目を瞑る傾向があります。

Mockus氏は

「私はブランドメーカーとして必要なコストは受け入れる用意があります。製品のコストをよく調べて、その上で嵩んだコストがあれば流通や売値のところで工夫します。サステナビリティの観点で、よりよい原料を使い、よりよい方法で製品化して成功した例がまだないということが、アパレルの本流になれない理由なのです。

きっと私たちは、本当の「価値」を消費者に伝えきれていないのかもしれません。というのは、サステナブルなTシャツもそうでないTシャツも売り場では一緒に並べてなんの説明表示もしていませんから。
お客さんたちは、その価値の違いに気付かず、ただただ価格やデザインのよさで買い物をしてしまいます。
これでサステナブルのTシャツが売れないと嘆くのはおかしいと思いませんか?ちゃんとサステナブルな背景の説明表示をきっちりとすべきと思いますよ。少しずつ、ブランドもその意義を理解しつつあって、お客さんもやがて気付くようになると思いますよ」

サステナビリティはサプライチェーンに行き渡らなければならない

更にMockus氏は云います。

「サステナビリティの一つの問題点は、低価格を求める消費者に受け入れられないことです。オーガニックコットンを考えた時、コストのことに関連して、採算の取れる生産規模になるかどうかが問題でしょう。生産体制そのものがコストダウンを実現するところの規模にまだなってきていません。
一般品との価格差が縮まればチャンスはあります」

U.S.Fashion Industry Associationの代表のJulie Hughs氏は
「サステナブルブランドのもう一つの問題は、消費者は年毎に価格の安いものを期待することでしょうね。
私たちは、みんなそれぞれの箱の中にいて、サステナブルなことをもっとできないか、消費者にそのことを示して、そして私たちに何が得られるのだろうかと迷っています。その解決策は、サプライチェーンです。
サプライチェーンの在り方を見直して流通の仕方や無駄の排除をして、取扱量を増やしてゆくことが大事です」

Hertzman氏も続けて「サプライチェーンの在り方を見直して、如何に効率をあげるかということですね。バングラディッシュの工場では廃棄していたコットンをうまくセーターやニット製品に編み込んでそれを特徴にしてIndeitexのような大手のブランドに売り込んでいますよ」と言いました。
地球規模でより良い規準を持つことはサステナブルにとって大きな助けになります。

Hertzman氏は言います。

「中国では、人口問題から来る大気汚染が世界中のアパレル小売業に影響を及ぼしています。工場の担当者にいつ出来上がって、いつ納品できるか聞くと、今日は青空、一週間後はグレーの空、黒い空になったら配送中止だと答えました。
人々が外で息が出来なくなるとトラックは走れなくなり、配送は中止となるということです。会社は、工場の中の生産状況や納品状況を知らせることはなく大気汚染次第で注文商品が届くかどうかということになるんです。もちろん消費者への影響も出ていますよ」

Mockus氏は、
「サプライチェーンが一つだったら、その事態にどのように対処すればいいんでしょうか?増してやサステナブルの証明なんかできる訳ないですよね。
世界的な大手アパレル企業のサステナブルをあらわすラベルについてもその企業の立ち位置を示すことは難しいですね」
Hughes氏は「私たちが合同してゆくことでしょうね。きっとひとつのやり方ではなく、基本的な人と人が会うことで解決して行くのでしょう。まだ私たちにはできていませんが・・・」

消費者にはまだ、受け入れられていない。

Mockus氏は、「アメリカの消費者は洋服や布地がどのように作られているかよく知らないと云います。既に、アパレル製品はほとんどアメリカで生産されていないことは判っていてもその実情は、知らないでしょう。
知る機会がないとその製品のサステナブルな価値も判らず、ただただ安いものを追いかけ、
飽きたらポイっと捨ててしまうということになります」とファーストファッションの製品の消費行動を例にとって説明しました。

結局、サステナブル製品が倫理なのか宣伝なのか、サプライチェーンなのか規準が大事なのかに係わらず、
なかなか消費者に受け入れられるのは易しくありません。
なんといっても消費者が製品を選択し購入することでビジネスとして成り立っている訳で、
消費者の求めるものに合わせてゆかなければならない訳です。それでもブランドの適切な主張を表してゆくことは重要です」

Hertzman氏は、短く「人は物語を買うものです」と言いました。
続けて「特にサステナブルな意識のある消費者は、価格だけでなく「物語性」を買うものなのです」と言いました。

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オーガニックコットンの製品は、欧米でも一定の地位を得ていて、サステナブルな商品と言えば必ず真っ先に出てきます。このレポートにあるように日本のメーカーさんたちも折角認定のある正真正銘のオーガニックコットン製品を扱いながら小売店や消費者にその意義を十分に伝えきれていないため、消費者からただ「オーガニックコットン製品は高いから買えない」と言われてしまっています。
大いに工夫して、オーガニックコットンのエシカル、サステナビリティを消費者の皆さんに浸透させてゆきましょう。

文責:日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男
2017/11/30