知れば知るほど知りたい疑問[コラム 2018 No.20]

知れば知るほど知りたい疑問

オーガニックコットンの勉強をして、ひと通り理解した後、
「あれっ?それってどういうこと???」
と疑問が湧くことがあります。
そういうテーマを考えてみましょう。

コットンはリサイクル商品か? 

 天然繊維の優れたところは、生分解性が良いということです。
綿製品は条件にもよりますが、土に埋めてから数週間から6か月で分解され土になります。
ここで云う条件とは、綿製品の染色その他の化学処理の度合いや土壌の温度、土壌の質(微生物の量)などで、微生物が活発に働ける条件が良いかどうかで決まります。
   これに対して化学合成繊維、プラスチックは500年以上掛かります。
500年も掛かるんじゃ使い回そう、と云うのがリサイクルの発想です。
綿は生分解性が優れているので、基本的にはリサイクルの必要はありません。
繊維製品全体のリサイクル率は10~20%と云われています。
その他はゴミとして焼却されます。
綿製品のリサイクルは、一般的には雑巾、フエルト、軍手などがあります。
使い古した綿製品を反毛の機械に掛けて繊維に戻す考え方です。
そのリサイクル綿繊維でフエルトに加工したり、糸に加工してから
軍手などを作ります。但し、ここで注意しなくてはならないのは、そのリサイクルの方法は、本当に省資源、省エネルギーに役立つかという点です。

 使い古しの綿製品の回収のためにトラックを走らせるガソリン燃料、反毛の機械を動かす電気エネルギー、回収の作業をする人件費は社会的なコストとして見合うかどうかということです。

 綿は毎年、主に途上国の農業者が生産し、その人々の生活を維持する重要な収入源になっています。この産物を買って、途上国の貧困農村を助けているという側面もあります。
あえてもう一度云うとすると、価値のない汚れた使い古しの綿製品を貴重な石油エネルギーを使って、わた繊維に戻して安物商品に作り直そうとすることこそ社会的損失だと考えます。

     再利用の方法として成功している例があります。
2010年6月にタオルの名産地・愛媛県今治に綿をエタノールに変える工場が本格稼働を始めました。50トンの綿製品から20キロリットルのエタノールが生成されます。
その原理は、綿は95%が純良なセルロースで、グルコース(ぶどう糖)の重合体です。この重合体を酵素で壊すと元のグルコースになり、これをアルコール発酵すれば立派なエタノールになると云う訳です。
 エタノールは燃料の他、広い用途があります。今治では、染工所などの
ボイラーの燃料に使われています。
発酵の工場内は、一般的な熱と動力のエネルギーを多用する合成の工場
とは異なり、微生物の発酵を維持するだけでお酒の工場のように静かです。
エネルギーの消費が少ないエコロジー工場です。

隣りの畑との距離は? 

 オーガニックコットンの畑の隣には、慣行農業(一般の農薬を使う農業)の畑がある筈で、その間隔はどのように規定されているのだろうか?

 慣行農業で撒いた農薬は風で飛んでくるだろうし、遺伝子組み換えの農産物の花粉は飛んできて受粉してしまうのではないかと疑問が湧きます。
オーガニック農業には、「緩衝地帯」という規定が設けられています。
これは、慣行農業の畑と有機農業の畑の境界には、一定の間隔を空けることの規定です。
 そこで認証規定に、ガイドラインとして、隣地との距離が定められています。

アメリカNOP :約15m(50feet) とする。

ヨーロッパEU :10mとする。 
         但し、隣が果樹園の場合は20mとする。

日本 有機JAS :基本的には1mとする。
         但し、空中農薬散布のエリアで
         有人ヘリコプターの場合10mとする。
         無人ヘリコプターの場合 3mとする。

規定値の10m~20mは、間隔が狭い感じがします。
しかし、例えば50m、100mと規定しても、風による移染は起こらないとは云えません。
そこで、積極的に直接的に農薬を振り掛けた場合と風で一部が飛んできた場合とは次元の違う事として、実情に合った間隔を規定している訳です。

 オーガニックの規定は、あくまでも対象の農地で農薬を使わないということで以上の緩衝地帯のあり方から認証の趣旨が損ねられるということはありません。

オーガニックの認証移行期間は 2年、3年??? 

 オーガニック農業を表現する時、必ず表現される言葉は「農薬や化学肥料を3年間使用しない土壌で、農薬や化学肥料を使用しないで生産され、遺伝子組み換えでない農産物であり、かつそれが第三者認証機関で認証されたものを指す」とあります。
IFOAMなど元々の規定では、「認証する農産物から遡って2回の収穫を経ること」とあります。
  業界のパンフレットや雑誌やネット情報でこの移行期間を表すのに、2年以上とか2、3年というよう記述を見ることがあります。
認証される3年目から振り返ると2年前のことになりますので移行期間は2年という表現になります。ヨーロッパEUとアメリカNOPの移行期間の基準は異なりますが、まずはEUの規定について順を追ってみてゆきましょう。

1年目:認証機関の指導の下、オーガニック農法スタート
    春 種まき
    秋 1回目の収穫

2年目の収穫
 春 種まき
 秋 2回目の収穫

※ここまでの1年目、2年目の収穫物を転換中のオーガニックコットンと位置づけて「プレオーガニック」と呼ばれていることがありますが、これは認証されていない、あくまでもオーガニックコットンに移行中でオーガニック認証はありません。

3年目
 春 種まき
 秋 3回目の収穫物【この収穫物から晴れてオーガニック認証となります】

 以上この3年間で、農場の人たちはオーガニック農業へ意識を転換し、慣れない記録作業などができるようになります。
結局すべて人が行う事なので、良い結果をもたらすため農業者たちの大事な
”訓練期間”ということになります。
アメリカNOPの規定では移行期間は収穫前3年間としていますのでオーガニック認証がとれるのは最短でも4年目ということになります。
アメリカは、オーガニック農場への移行をtransitionとし、EUではconversion転換と呼んでいます。同じ意味です。
2012年以降、EUとNOPは、同等と認めあい相互の製品の貿易に支障がないようになりました。

 以上基本的な移行期間を説明してきましたが、現状は大分認証の規定が変わってきています。
国ごとに気候や土壌や害虫などの事情が異なり、一律で決めることが難しいことが理解され、IFOAMも各国のIFOAM機関をファミリーと呼び、それぞれの国の実情に合わせた基準を認めています。移行期間についても、農業履歴、土壌検査、一年生・多年生のちがいなどによって2年とか3年またはそれ以上と決めています。
「移行期間を表す場合2~3年以上」というのが実情に近い表現であると云えます。

 なぜアレルギー症にはオーガニックコットンなのか? 

 オーガニックコットンは、日本に入って来た時からアレルギーの患者さんたちに使われてきました。その訳について見てゆきましょう。 

<アトピーアレルギー症>

 1990年以降、幼児が原因の分からない湿疹や不快な痒みに悩まされ、多くの母親たちの不安を呼びました。原因がわからないという意味の「アトピー」という新しい病名がついて、アトピーアレルギーと呼ばれ、アトピー対策として改善や治療の商品が沢山出回りました。
 アトピー症の対処法としては、肌を清潔にして保湿し、その上でできるだけ肌を刺激しない繊維素材の服を着せることが専門医から指導されました。
 一般的な繊維製品の加工工程では、漂白、染色、柔軟加工等々化学的な処理が幾重にも行われています。専門医は、ここで使われている化学物質が肌に影響している可能性があり、化学処理の少ない衣料品を身に着けることを薦めていたのです。

オーガニックコットンの製品は、無農薬の綿素材を使い、糸、生地の加工工程でもできるだけ化学的な加工をせず、無垢・生成りの天然の特性を活かすことを目指して仕上げられてきました。

 この化学的な加工処理をしていない製品が、アレルギー症の患者さんたちに受け入れらてきたのです。

<化学物質過敏症>

 アトピーアレルギーは、免疫系の疾病で、主に幼児、若年層で発症します。
これに対して化学物質過敏症は、神経系の感作(感じる作用する)で極々微量な化学物質が神経に作用して、頭痛、関節痛、悪寒と云った不快な症状を起こします。中高年女性に多く発症します。
 新築やリフォームを契機に建材などから出る化学物質を体内に多量に取り込み、体内で処理できる限度を超えると、一群の化学物質に超過敏な症状として現れます。
 一般の衣料品・繊維製品と異なり、オーガニックコットン製品は染色他化学的な加工処理をしていないため、残留する化学物質が極々少なく、患者さんは安心して身に着けられる訳です。

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この度、皆さんの見過ごしがちな「ちょっとした疑問」を取り上げましたが
この他に疑問が湧いてきましたら、事務局にお寄せください。一緒に考えてみましょう。

         文責:日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男

                                 2018/6/7
※平成28年7月26日の原稿を再編集しました