コラム 2018 No.16

Failed Promises
soil Association report the rise and fall of GM cotton in India October 2017

破られた約束/インドのGMコットンの上がり下がり  2017年10月

GMコットンとキラキラの魅惑的なダンサー

このレポートは、インドにおけるGMコットンの天文学的数字の伸びと壊滅的な落ち込みについて報じている。
インドは、コットンの最大の生産国であり、世界第二位のコットン輸出国である。

GM農産物は、当初世界に十分な食料供給、途上国の貧困根絶、生産効率の向上など、人類の夢の農業実現と謳われ登場した。ところが現実は多国籍企業の強引な営業力で貧困農民に高額な支払いをさせて、多くの悲劇を招く結果となっている。

GMコットンは2002年、モンサント社が最初にインドに持ち込んだ。まずキラキラの魅惑的な女性ダンサーを使った派手な宣伝攻勢から始まった。
物凄い勢いで浸透して行き、今日なんと11,800Ha、インドのコットンの90%を占めるに至った。

ピンク毛虫(pink bollworm)の逆襲

GMコットンはインドの最も迷惑な害虫駆除に有効と主張してきた。                                                           
ところが大自然は、いつでもある害虫が根絶すると次の害虫が入れ替わる。
GM技術は当初ピンク毛虫を相手にしていた時はうまくいったが、白ハエ(white fly)がやってきて
作物にダメージを与えた。

2015年、Punjab(パンジャブ)で2/3の収穫にダメージを与え62,900万ドル(629億円)の損害と15人の農民を自殺に追いやった。

2006年、モンサント社が第一世代のGMコットンを販売拡散させた。

ピンク毛虫は西インドで、抵抗性を見せ始めた。
そこでモンサントは改良してさらに高額の第二世代のGMコットンで営業攻勢をかけた。                                                    
しかし、2、3年内にはその害虫はさらに抵抗性を示した。
この害虫が、これほど急速に抵抗力をつけた原因は、虫にとっての毒性が長期に継続的に作用したため、
逆に虫にとっては遺伝的な抵抗性を持つには都合がよい条件になってしまった。結果として殺虫剤の使用量は、2.4倍に増えた。
2006年の使用量は、1ヘクタール当たり0.5kgだったのが、2015年には、1.2kgになってしまった。

GMコットンの失敗と農民たちの自殺

2014年、Raichur地区の150.000エーカーのコットンの収穫は80%失敗した。
損害の金額にすると400万ドル(4億円)だった。
インドコットン諮問委員会は、Btコットンのコスト高、肥料や殺虫剤の農薬の購入、害虫の抵抗性が強まっていることなど3点は、
はっきりと問題であると指摘した。
Btコットンで収量を増やせると説明されてきたが、結局は2002年から2005年までの間増えた収量は0.4%から5.4%への増加に留まった。
その後、Btコットンによる生産は67%から92%に拡がり、収量は減ってきている。

2015年、アメリカ・カリフォルニア州立大学バークレー校の調査によると天水農業エリアのインドの農民の年間平均自殺率の上昇は、Btコットンの導入地域と重なっているとしている。その自殺の理由の7つの内の4つはGM産業がもたらしたと報告している。

マハラシュトラ州Vidarbha 地区はBtコットンの失敗で2006年から2011年までの間で7,992人の農民の自殺者が出ている。自殺防止運動の会長は言っている。
「2006年から始まった不作はGMコットンが導入されてからで、重い経済損失に農民は
再起できず、借金に追い立てられ、多国籍企業が見せたGMコットンによる甘い夢は、ことごとく壊れ、失望のあまり自殺に奔ったのだ」

インドにGMコットンを持ち込んだ議員たちの責任について、前の議会の諮問委員は、はっきりとそれが過ちであったと認める表明をした。
「1990年にインドでGMコットンが導入され20年が経って、千人以上のコットン農民の自殺があったことに責任を感じる」

GMコットンの終わりの始まり

2012年までGMを使わない農家やオーガニック農家は、大きな問題に突き当たっていた。
それは、GMではない種がほとんど手に入らない事態になったことだった。GM企業は、各国で行っているオーガニックコットンの成長の出鼻をくじくように高圧的な運動をしてきた。
しかし、時代は変わった。
2016年から2017年のBtコットンの売り上げは15%も下降してきている。

Andhra Pradesh州政府は、はっきりとBtコットンの縮小を計画している。2016年から2017年にかけての計画は、67万ヘクタールを45万ヘクタールまで縮小するとしている。
2016年にピンク毛虫の被害を受けてきた。そこで農民に呼びかけ雑穀や豆類の栽培にも励むよう呼び掛けている。
コットン生産地であるPunjabとHaryana地域は、white flyの害で27%も収穫量を減らし、農民はこの地を離れ始めている。Uttar Pradeshでは、19%の収穫量の低下がみられた。

全体的に、モンサント社の種が使われている地域は10%程度の収穫量低下を示している。
農家は、伝統的なデシ綿に切り替えたり、コットン以外の農産物の生産をするように
なった。Times of India紙のレポートでは、Btコットンの種は、これまでプレミアム扱いだったが今や投げ売りに奔っているとしている。

デシ綿の生産をしてみた農家は、Btコットンの半分のコストで済んだと報告している。

GMコットンは世界的に問題を撒き散らしている。

2011年から2016年にかけてアフリカのブルキナファッソでは、GMコットンの生産の失敗で8,240万ドル(82億4,000万円)の損失を出して、2017/18年の生産にGMコットンを締め出した。その結果20%の収穫増が得られる見通しがついた。

ナイジェリアで、GMコットンの導入の計画があったが、500万人を代表する100のグループが揃って反対した。このグループは、環境保全や健全な土壌育成を進める運動をしていて、ブルキナファッソの失敗に学べと主張した。
パキスタンでは86%のコットンがGMで2015年に27.8%の収穫減を経験している。
モンサント社のお膝元のアメリカでは、カロリナからテキサスまでのいわゆるコットンベルトと呼ばれる生産地域でBollworm対策にBtコットンが使われている。
南部の各州では、この害虫の抵抗力の増強に懸念を持ち始めている。テキサスでは、すでに、この害虫がオリジナルのBtコットンだけでなく、改良種までも抵抗性を持ち始めていることに気付いている。

非GMとオーガニックの将来

インドでオーガニックコットンの生産はいい位置にいる。
GMコットンが導入された頃、オーガニックコットンの生産効率は、GMコットンと比べて14%劣っていた。一方、オーガ一ニックの関連コストは38%も低かった。
また一般のコットンと比べて売値が高いため利益になった。インドは世界のオーガニックコットンの70%を生産する世界最大の生産地であり責任がある。

世界のオーガニック市場は、成長を続け今や157億ドル(1兆5700万円、2015年)になっている。大手ブランドは必ず、オーガニックコットンを取り入れ、さらに伸ばしている。
オーガニックコットンの需要はさらに拡大してゆく。GM技術の不備を知った農家は、切り替えてゆく。
消費者は、オーガニックコットン製品を購入し、アパレルブランドや小売り業者にオーガニックコットンの品揃えを増やすように問いかけてゆく必要がある。そうすれば、オーガニックのコットンの需要が増えて生産量は増えてゆく。そうすればオーガニックコットンのある豊かなファッション市場が現出してゆくだろう。

文責 日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男
2017/11/9