ウルス・ヘイエレリ氏 (St.Gallen大学・経済学者) は、著書の中で以下のように述べています。

コットン産業は、人々に富と不幸をもたらした。
コットンの歴史は、貿易による経済の拡大と同時に世界を同じ資本主義的経済原則に塗り替えていった。
そして富を積み上げる人々がいる一方、植民地化された地域の人々は奴隷となって苦しむ事になった。
産業革命には光と共に影の部分が、色濃くある。
農薬の過剰な投与による環境破壊があり、アラル海の枯渇に見られるような農業用水の収奪があった。コットンは、歴史的ないくつかの出来事の中でいつも重要な位置にいた。
遥か昔のコットンの素朴な姿はすっかり変わり、荒々しい経済の海に投げ出され、翻弄されてきた。
アンクル・トムズ・キャビンの物語は1852年に出版され、アメリカに限らず世界中の子供たちに、コットン栽培と奴隷の関係を学ばせることになった。
ある年、コットン畑は、重篤な害虫被害を受けて、防衛のためにより強力な農薬が撒かれるようになり、土壌の質は著しく悪化した。
ニカラグアでは、この土壌汚染が顕著に現れた例として有名である。
1977年の時点で22万ヘクタールあった畑が、1980年後半から、農薬漬けと言われるほど殺虫剤を撒き、農地はひどく荒れ、採算の合う畑は、極端に減り、現在、往時の1%の2千ヘクタールでしか栽培できなくなっている。
「Here Farmer and Fashion Designer Meet・Globalisation with a human Face in an organic cotton value chain」
By URS HEIERLI

発展途上国の農薬の問題は、貧困による教育機会の格差にあります。格差は支配層と支配される側をくっきりと分けます。支配層の意向がそのまま、支配される側の農民に伝わり、不利な取り引きでも農民は甘受せざるを得ないことになります。

取り仕切る側は農薬会社と農民の間に立って、自分達に有利になるように農薬の選定をし、農業指導をしてゆきます。途上国の農民の多くは農薬の取り扱いについての理解が十分ではなく、重篤な健康被害に繋がります。

Croplife International aisbl(国際農薬工業会)は、農薬の会社が組織する団体ですが、問題点を次のように指摘しています。

農薬散布の作業で着た服の洗濯が十分ではない、作業後食事の際に十分手を洗わないという衛生観念に問題があるとしています。またコストの安い農薬を求めて、地元農薬会社が作る安い農薬を使う、多くの場合、特許期限が切れて安易に作られ、危険性の配慮に欠けた毒性が強いものを使ってしまうとしています。

また、途上国の問題ではいつでも煮詰まったかたちで現れるのは、
そこに生きる子供たちへの被害です。

UNEP(国連環境計画)、FAO(国連食料農業機関)、WHO(世界保健機構)
が共同で2004年10月5日にローマで報告書を発表しました。

「Child Pesticide Poisoning :Information for Advocacy and Action
   ・子供の殺虫剤中毒:問題提議と行動のための情報」

子供たちは大人よりも農薬の深刻なリスクに直面している。農薬中毒は特に幼児や子供たちの健康に強く影響を及ぼす。特に途上国においては、これらの化学物質からの防護をもっと強化する事が必要。
毎年、100~500万件の農薬中毒があるとみられ、そのうち数千人の死亡者のうちにかなりの数の子供がいるとみられている。中毒の大部分は途上国の農村で起きていて、安全対策が不適切。

途上国の農薬使用量は、世界の農薬製造量の25%であるに対して途上国は、世界の農薬中毒に起因する死亡の99%を占めている。子供の身体は大人より害毒に対して強く影響を受ける。子供は農薬の害に対して無知で時には遊び道具にしてしまう事もある。慢性的な栄養失調と汚れた水を飲んで起こす下痢による脱水症の子供は特に農薬の害毒に弱い。現在2億人の子供が慢性的な栄養失調に苦しんでいると報告しています。

以前、インドの綿産地を訪れた時に、オーガニック農業に転換を勧める仕事の担当者と一緒に、一般の農業をしている農家に行きました。その時見た光景は忘れられません。使用済みの空の農薬の容器を子供たちがサッカーのボールの代わりに蹴り合っていました。また別の農薬の容器には水が入っていました。何に使うのか判りませんが、このように農薬は生活の中にすっかり溶け込んでいて、その毒物としての意識が無い事に驚きました。

日本オーガニックコットン流通機構 理事長 宮嵜 道男