仄かなコロンの香りも細胞を傷める

 

11月21日、珍しいテーマのセミナーがありました。化学物質過敏症の患者さんの集まりで、「香り」についてでした。

15年くらい前から、アロマセラピーという新しい芳香療法が話題になり始めました。

植物の精油の香りにリラクセーション効果がある、はたまた各種の病気の治療にも使えるとなりブームの波がいくつかあって、今ではすっかり普及して生活雑貨のお店では香りのコーナーが定番になっています。

精油と云えば、有名な話があります。19世紀のクリミア戦争で従軍看護婦として有名なイギリスのナイチンゲールは負傷した兵士の鎮静と鎮痛のためにラベンダーの精油を活用したと云われています。

精油の香りの分子は鼻の上皮嗅細胞の受容体に取り込まれて脳に向けて電気信号を発します。視床下部、下垂体、大脳皮質へと伝わり、自律神経や内分泌に作用し、精神作用や呼吸や睡眠に影響してゆきます。また大脳辺縁系の扁桃核では、快感又は不快感となり、気分や感情に影響してゆきます。脳内ホルモン・神経伝達物質であるドーパミン、セロトニン、アドレナリン、アセチルコリン、エンドルフィンなどの分泌を促すとされています。

ラベンダーの香りはリラクセーション効果。

レモンは視覚認知機能を高め、集中力を向上させる効果。

一般的に柑橘系の香りは軽い高揚感、抑うつ気分の改善があるとされています。
但し、香りの心理的効果は個人個人の記憶と結びついて好き嫌いに影響するので単純な方程式通りにはゆきません。あくまでも本人が心地よいと思う香りがベストということになります。

面白いのは、ある香りを嗅ぐと過去のある時点の気分やその時の光景の記憶が鮮明に蘇ることがあります。これは特別に『プルースト効果』と呼ばれています。危機的体験を瞬時に蘇らせて身を守る本能と云う事でしょうか。ミルクの香りで母の胸に抱かれた気分を味わうということもあるでしょう。

さて、いい香りは精神的に良いと思い込んできましたが、11月21日に横浜で行われた香りのセミナーでは、化学物質過敏症の患者さんにとっては、ただただ「感作の要素」で困る存在ということでした。

講師は浜松医科大学の神経解剖学の教官として長らく香りの研究をされてきた渡部和男先生で、小柄ですが実直で一本強い信念を感じさせる方でした。

日常生活で使われている極く当たり前の薬品や製品の香料中にぜんそくなどを引き起こす原因物質が多くある事例を紹介されました。また掃除機のゴミフィルターに付いた香料など意外なものからも体調の悪化が起こる可能性があります。

サルモネラ菌に香料を作用させると変異原性を示す実験を説明され、人の細胞でも、確実に   ダメージを受けことがあると言及されました。

また同時にそれらは内分泌かく乱物質いわゆる「環境ホルモン」作用をもたらすことがあると云います。マサチューセッツ州ケープコッドで起きたある種の香料が関係する薬剤で乳がんの異常発症が起きた事件などが紹介されました。

内分泌・性ホルモンの女性ホルモン・エストロゲンと男性ホルモン・アンドロゲンのバランスは特に大事で、乳がんだけでなく子宮がんや男性不妊症の原因になっています。

EU(欧州連合)はイランイラン、グローブ、ローリエ、シナモン、クマモン、ローズオイル、スズラン、ラベンダーなどの香料の規制があります。(National Toxicology Program 2000)日本でも香料は、薬事法で好ましくない化学物質という表現はしているものの実質的には、野放し状態が続いています。

化学物質は、単独で安全性が確認されても、合成するととんでもない毒性を示す例が少なくなく10万種類にも及ぶ現代の化学物質の縦横組み合わせを考えると天文学的数字となり特定することの難しさが判ります。

ひと頃前にテレビの番組で柔軟剤の香りによる頭痛や体調の悪化を問題にていました。とは言っても民放のテレビのスポンサー企業は、「いい香り」を営業戦略的に使っているので、香料の健康問題についての番組を扱える筈もなく、かろうじて公共放送NHKが小さく取り上げている程度で、一般の消費者が目にする機会は多くありません。

若い人たちの間では、洗濯の時の柔軟剤の香料が好まれていて、草食系で柔軟剤の香りを漂わせている清潔感ある男子がもてるようで人気は上昇一方です。なんと柔軟剤の香りのチューインガムが発売になったそうで、口臭隠しに使われるとは驚くばかりです。

渡部先生の講演では、人工合成の香料は云うに及ばず、天然の香料の中にも身体・細胞レベルで負荷があるものがあるということには興味が湧きました。それにしても、改めて化学物質に過敏な体質の方々には、香料は辛いものであり、お店や公共の場に充満する臭いは耐え難いものなのだろうと想像しました。

10月4日に化学物質問題市民研究会、日本消費者連盟関西グループ、反農薬東京グループ、香料自粛を求める会の4団体が、文部科学省に「学校等における香料自粛に関する要望」を提出しました。生徒、学生が、香料で体調を崩すケースが多くなってきていると云います。臭いの元は、香水の他、洗剤、シャンプー、整髪料などです。

過敏でない人でも、細胞レベルでは知らず知らずにダメージを受けているとなれば、放っておけないみんなの問題で、官民挙げて、本気で取り組まなくてはいけません。

「自然のままに・・」というオーガニックセンスを広めてゆくことの大切さを思いました。

平成25年12月4日                                             NOC  宮嵜道男

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください