ファッションパクトG7       

2019年8月24日から3日間、フランスの南西に位置するビアリッツで、G7サミット会議が行われました。G7はGroup of Sevenの略でフランス、イギリス、ドイツ、イタリア、アメリカ、カナダそしてわが国の7カ国で構成されています。
1973年のオイルショックの事件以降、先進国が協調する必要があり、各国の財務相がフランスに集まって協議したのが始まりです。その後イタリア、カナダが加わり国家首脳が一堂に会するようになって現在に至っています。日本での開催は、東京で2回、沖縄、洞爺湖、伊勢志摩サミットと5回を数えます。
この7カ国の経済的な勢力は1980年代までは世界人口の10%で経済力を示すGDP(Gross Domestic Product/国内総生産)額は世界の70%を占めていました。
その後、2008年のリーマンショック以降は、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の勢力が台頭してきて50%弱にまで低下しています。
G7は、上述のように当初は経済の協調が議題でしたが年を追うごとに安全保障、テロ対策そして地球サイズで起きてきている環境問題のテーマが討議されるようになってきています。

この度のG7では、フランスのマクロン大統領が特にファッション・テキスタイルの分野の環境負荷についての改善目標の取りまとめをケリンググループ(フランス)に依頼し、作り上げた協定「ファッションパクト」が発表されました。

協定に加盟した企業は32グループ、147ブランドです。

ケリング(Kering)、バーバリー(Burberry)、シャネル(Chanel)
フェラガモ(Ferragamo)、アルマーニ(Armani)、
エルメス(Hermès)、モンクレール(Moncler)、
プラダ(Prada)、ラルフローレン(Ralph Lauren)、
ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)、
ゼニア(Zegna)、H&M、ギャップ(Gap)、
インディテックス(Inditex)(「ザラ(Zara)」等)、
アディダス(Adidas)、ナイキ(Nike)、プーマ(Puma)、
利豊、山東如意、Bestseller、
PVH(「カルバンクライン(Calvin Klein)」、
「トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)」、
「スピード(Speed)」等)、
カプリホールディングス(Capri Holdings)
(「マイケル・コース(Michael Kors)」、
「ヴェルサーチェ(Versace)」、
「ジミー・チュウ(Jimmy Choo)」)、
タペストリー(Tapestry)(「コーチ(Coach)」、
「ケイト・スペード(Kate Spade)」、
「スチュアート ワイツマン(Stuart Weitzman)」)、
Fashion 3、カルフール(Carrefour)、
ギャラリーラファイエット(Galeries Lafayette)、
La Redoute、ノードストローム(Nordstrom)、
セルフリッジ(Selfridges)

この加盟企業の勢力は世界のファッション産業の約30%になります。
この協定には残念ながら日本の会社は参加していません。

ファション協定は科学的根拠に基づく目標を設けて、地球温暖化の阻止、生物多様性の復元、海洋保護の3本柱からなります。

  • 国連によると温室効果ガスの10%が繊維ファッション産業から排出されているとされ、この協定では50年までに排出量ゼロ達成のためのアクションプランが盛り込まれている。

 

  • REDD+(レッドプラス)の施策に取り組む。途上国が自国の森林を保全する活動に対し国際社会が資金を提供することで、 森林破壊と温暖化を食い止める運動。

 

  • 2030年までに参加企業が使用するエネルギーを再生可能なものに100%移行する。

 

  • 生物多様性の分野では、過密飼育を行う農場からの調達をとりやめ、生態系や種の保存、土壌再生などを重視した農業を優遇する施策を進める。

 

  • 海洋汚染問題では使い捨ての一回使用プラスチックを2030年までに廃止。マイクロファイバー汚染についても新素材の開発を進めることで抑制する。

 
ただし、これらはあくまでも目標であり、罰則や規制を受けることはなく、あくまでも自主性に任せるとしています。
 
ケリングの担当者がフォローしています。
「ファッション業界で環境破壊の抑止力となるのは政府ではなく、「消費者」です。重要なのは結果であって、意気込みを見せることではありませんが、これだけの加盟企業のトップが協定に名を連ねたこの瞬間から、何かしらの効果が現れなくてはいけないと思います。今日では特にSNS上で商業的な不誠実があると厳しい批判を受け、それが直ぐにブランドイメージの毀損に繋がる時代になっています」「この協定にはNGOが関与して実効性を高めることになっています。化学製品から再生可能な農業まで、それぞれの分野に専門のNGOが担当してゆきます。例えば「生物多様性」の分野ではWWFというように進めます」
 
ファッションパクト協定から見えてくることは、人間中心で考えるデザインから、地球中心でサステナブルを考える脱人間中心のデザインに向かっているということです。
従来の“人間中心”ということは人間のニーズやエゴに応えるということです。例えば、プラスチックは非常に効率的に作れるし、リサイクル性が高い素材ではあっても、有限な化石燃料を背景にしているので、止めてゆく路線に切り替えてゆこうという事です。
このように地球中心主義とは、これまでの人間を中心とした生産合理性や効率性、大量生産大量消費の経済スタイルを、地球環境保全という価値基準に転換するということです。

この転換とは、これまでの単に美しい優れた競争力のある(よく売れる)製品を生み出すエネルギーから、地球規模の複雑で壮大な問題の解決策に取り組むという、ファッション業界が今まで本気で取り組んだことのない領域です。少なくともファッションデザイナーとして教育を受けて業界で働いている人がこの領域に入っていくには、勇気や知的体力が大いに求められます。
これからは、この地球保全感覚のないデザイナーは嘲笑の的になるということです。
 
日本のファッション産業の直近の話題は、これまで隠れていた大量の衣料の廃棄問題です。公的な統計調査はありませんが、複雑な流通統計をやり繰りして出された数字があります。
どうも日本では年間38億点の衣料品が流通していて、20億点が消費者に渡り18億点が廃棄されているというものです。これは廃棄率47%にもなり、いかにも大きな数字で、実際は年間10億点程度で、廃棄率は4分の一が常識的な数字と見られています。それにしても大きな無駄です。
日本のファッション産業は何かがおかしいと、感覚的にはみんなが感じてきたことではないでしょうか。その先に断崖絶壁があるのにそれを確かめず、左右で猛進しているライバルの一歩前に出ようと一心不乱にスピードを上げていることのようです。
 
実際、供給量がバブル期の倍に増えているのに対し、消費量がほぼ横ばいで、消費しきれない大量の余剰が廃棄されているわけですが、これは競争力のために安さを求め、生産拠点を海外へ移し、安い原価で大量に作れる条件が揃っているからです。そしてこの大規模な生産の影には、縫製工場における悲惨な労働問題があります。
例えば、バングラデシュでは誰でも作業ができるように工程を極力細分化・単純化し、安い単価で大勢の工員を使います。発注側は、初めから半分くらいは売れないだろうなと思ってもコストとのバランスとして「量」を選択するわけです。現地では主に農村出身者の女性たちが月給4000~5000円(賃金はアジア最安水準)で働いています。この賃金から劣悪な作業環境、労働条件があることは推して知るべしです。
華やかに見えるファッション産業はとんでもない格差、貧困の泥沼から産まれている事を知るべきです。
「リサイクルすればエコだ」と免罪符のように都合よく主張する向きがありますが、実際にリサイクル工場では、混紡品で化学繊維が交ざったような服が多く、分別できないのでリサイクルが難しく、ウエス(雑巾)としても使えず、RPF化(廃棄物固形燃料化)しています。
 
以上のように、これまで無邪気に人間の欲望を中心に築き上げられてきた壮大なファッション産業の正当性の根拠が疑われ、変えなければならない「転換点」にいる事を認識する時が来ている事をファッションパクトの選択から読み取ることができます。
NOCは、オーガニックコットンの普及活動を四半世紀以上前から進めてきましたが、やっと活動の意義が理解される時がきて、更に身を引き締めて活動する必要を感じています。

文責:NOC日本オーガニックコットン流通機構

宮 嵜 道 男  4.10.20