サスティナブルなオーガニック[コラム 2020 No.9]

サスティナブルなオーガニック

戦時下、敵性語というのがあって野球のセーフはよし、アウトはだめ、ファウルはもとえと外来語を禁じました。
外来語を日本語に直すのは確かに難しく、両者の意味合いを勘案して誤差を小さくするよう工夫されてきました。
Libertyを「自由」、Rightを「権利」としたのは見事という他ありません。
Book keepingから簿記、Galleryを画廊などは機智に富んでいます。

最近の外来語の氾濫ぶりには、目を覆いたくなります。世の中、ほとんど日本語に転換する意欲を失って、なんでもかんでもカタカナ表記に甘んじているように見えます。
そんな中、「サスティナビリティ」という言葉が入って来て、流石にそのままでは長いし、短縮して”サス”では馴染まないし、とうとう「持続可能性」と訳されています。
ところがこの語感からはなにもイメージが湧いてきません。
世の中には、持続して歓迎な事ばかりではありません。持続しない方がいい事もある訳で、してみると「良い環境にして持続させる」ということになります。
持続する先の未来にいい事を残すという意味ならば、「子孫にいい暮らし」と云った方がはっきりするように思います。

では、この言葉がどこから来たのかというと、1987年に国連で「環境と開発に関する委員会」の出した報告書に言及されたのが始まりです。

環境、社会、経済の面から未来の世代の人々の良い暮らしのために今からできることを考えようとしたものでした。その背景には、人類の生産、経済活動が地球規模になり自然環境破壊が気候変動、異常気象の起因となっているようだといういくつもの研究報告があり、一定の指針を出して、世界の人々の共通認識にしてゆくことを求めたものでした。
大気、水、生き物たちの生態の自然環境を良好な状態に維持するためには、社会として、貧困や差別、強制労働、児童労働など不当な労働環境を改善することが大変重要です。貧困地域では、その日その日をやっと生きるために森林破壊、河川や海の汚染、動物の過剰な捕獲などが起きているからです。そしてこの貧困な人々を組み込んだ経済が現存しているということが問題の根っこにあります。低い人件費を求めて生産基地が移動して行く現象が当たり前にあります。

豊かな植物群が地球に酸素を供給しているということからブラジルのアマゾンは「地球の肺」と呼ばれていますが、そのアマゾンから急速に森林が消えています。ギリギリの生活のために現地の人々が伐採するのを非難することは難しく、それを買い付ける側の経済活動を問題にしなくてはなりません。
地球あっての経済だという事を、心底認識出来れば、経済を進める上で、理性的に環境への影響を計りながら開発し生産活動してゆけます。
科学的に影響評価して、限界を超えなければ自然環境は粘り強い回復力を発揮してくれます。環境の保全管理の行き届いた地域の産物を使い、認証ラベルなどで明確にされたそのラベル付きの商品を消費者が積極的に選ぶような風潮が是非とも必要になってきています。

以上のようにサスティナブルの意味するところには色々な要素がありますが、オーガニックコットンの立場から考えると、農薬がもたらす環境汚染、生物多様性の喪失や土壌劣化、遺伝子組み換え作物の蔓延により「種の保存」ができなくなるという事態が起きて二度と後戻りできないという将来の不安があり、改善が望まれます。

世界経済の成長が止まり、消費需要が減り、ネット通販などの新しい販売の仕組みが猛威を振るい、過酷な価格競争が続き、そのコストの削減は元へ元へと遡り、弱小な加工業者や貧困に喘ぐ農業者を苦しめます。冷徹な経済原理の中に温情の入る隙間は僅かかもしれませんが、消費者がサスティナブルを求めれば企業は変わらざるを得ません。
消費者が、「サスティナブルなお買い物」をすることこそが良い循環を起動してゆくことになると思います。

文責:日本オーガニックコットン流通機構
顧問 宮嵜道男
12.11.2019