質は同じで価格は倍

オーガニックコットンの質は、同じで価格は倍…の誤解

9月13日日曜日の午後10時、TBSテレビ放送

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「林先生が驚く初耳学」という番組で「オーガニックコットン」が取り上げられました。

この番組は、「今でしょう!」というフレーズで一躍人気タレントになった受験塾講師の林修氏に向けて、いろいろな疑問をぶつけて、物知りで鳴らす林氏が「知らない」と答えるとスタジオ内は大盛り上がりになって視聴者の出題者に「初耳賞」なる賞を贈るという趣向です。

この度の設問は、「普通のコットンとオーガニックコットンはどこが違うか」というものでした。

解答者の林先生は、悔しそうに「知らない」と答え、番組としては、大成功で「初耳賞」に輝きました。

では、簡単に内容を再現してみます。

街頭インタビューで、2人の女性にオーガニックコットンのイメージを聞きます。

一人の女性は「肌にやさしい」、もう一人の女性は「体にいい」と答えました。

そこで、番組サイドのアナウンサーが、「ところが品質は普通のコットンとオーガニックコットンは変わりがなく、価格は物によっては2倍違います」と説明します。

ひな壇に居並ぶコメンテーターたちは、番組の意図通り「エー!うっそー!そんなバカな」と騒然を演じます。

そこで、その解答は、日本オーガニックコットン協会の理事長・森和彦さんに聞いてみましょうということになり、にこやかな森さんが登場します。

「一般のコットンもオーガニックコットンも質に変わりはありません。

コットンに付いた農薬も分解してほとんどが残りません。

オーガニックコットンは、農薬や化学肥料をできるだけ使わないようにしているので、土壌を傷めず、畑で働く農家の人々の健康を害さない点が良いところです」と答えました。

すると番組側のアナウンサーが、「オーガニックコットンは、環境に良い繊維ということだったんですね」と結論づけました。

これを単純に消費者目線で見ると「環境にはいいけど、体にいい訳じゃなく、肌触りが特別いい訳じゃない、それで2倍の価格はおかしい」という結論になってしまいます。

その後、ネットの書き込みを見てみるとやはり番組の意図通り、視聴者は、「なーんだ、品質は普通で価格は倍か!」とだまされたという気分のコメントがありました。

中には、「これじゃオーガニックコットンが廃れるじゃない」と悲鳴のようなオーガニックコットンのファンの声も見られました。

コットンの残留農薬については、オーガニックコットンが世の中に知られるようになった1990年以降、いくつかの組織が調査結果を発表しています。

1992年には、ドイツのホーヘンシュタイン研究所とオーストリアのテキスタイル研究所が、エコテックス基準に照らして綿花の残留農薬を調査した経緯があります。綿花からの農薬は、微量で問題なしという結論でした。

1993年1月13日フランクフルト(ドイツ)でヘキスト社のゲルハルド・バルツ博士の発表があります。

博士いわく「一般的にみて、綿栽培の殺虫剤の散布回数は、果物や野菜など、ほとんどの農作物と比べて、極めて少ない。殺虫剤が全体の75%を占めるが、合成ピレスロイドや有機リン剤、カーバイト系殺虫剤などが使われていて、残留性が強い塩素系有機合成剤は使われていない。綿花の残存は、非常に低く、無視できるほど微量で、安全面で全く心配がない」と結論づけています。

そして、ドイツのブレーメン綿花取引所が1991年から1993年まで、19カ国から33品種の原綿について228種類の化学物質調査をしています。

DDTとかリンデンといった殺虫剤の残存は、規定の100分の一以下で人体を害することは、ないと結論づけています。

ただし、研究発表した組織はどれも農薬会社の学者だったり、綿花取引の推進団体だったり、供給サイドで、本当に公正かどうか疑問は残ります。

管理された畑から綿花をサンプリングすれば、検出されることはありません。

綿畑では、農薬の害に苦しむ農家の人々や近隣の住民がインドにも中国にも、アメリカにもいます。

貧困の中で古い毒性の強い薬剤を知らずに使っている農家もあります。

確かに、綿花に農薬が残存しても、その後の紡績、製織、漂白、染色、精錬などの多くの工程を経るので、残留農薬がコットンのTシャツに付着して、それが原因で健康を害するという可能性は、常識的にあり得ません。

日本でオーガニックコットン製品を生産する多くの企業は、オーガニックコットンの無農薬栽培の精神を尊重して加工段階でも、化学処理を減らした製品を提供してきました。

その結果、一般的に健康に良い、肌触りがよいオーガニックコットンという認識になった訳で、その業界の努力を一切無視して「質が一緒で価格が倍」という結論で終わらせたこの番組は、不見識です。

コメントされた日本オーガニックコットン協会の森さん自身、このような結論に持ってゆかれるとは思っていなかったと思います。

以前、私もテレビでオーガニックコットンの説明者として出演しましたが、1時間半ほど話して使われたカットは、20秒程度でした。

テレビは、番組の意図に従って、インタビューもコメントも編集してしまいますので大変怖い存在と感じています。

世界の巨大な綿業界の中で、小さいながら、将来の世代の健康まで守りたいというオーガニックコットンの運動をさらに応援してください。

平成27年9月17日 日本オーガニックコットン流通機構 宮嵜道男

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