善か悪か「世紀の大発明」

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カミナリが多い年は、稲が良く育つということから、雷を「稲妻」「稲光」と 呼ばれるようになりました。
雷の熱と衝撃が大気中の窒素を固め、雨に溶けて地表に降り、土壌に栄養を与えると考えられています。
神棚の注連縄(しめなわ)は稲わらを束ねて、そこから、ぎざぎざに折った白い紙をぶら下げます。これは紙垂(かみしで)と云い、まさに稲光りを象っています。
稲とカミナリは、お米で命をつないで来た日本人にとっては、霊験あらたかで有り難いものの象徴なのです。

大気中の窒素が、窒素化合物になることを「窒素を固定する」と言いますが、その稲妻が年間500万トンもの窒素を固定しているというから驚きです。

大気中の窒素は、主にマメ科の植物の根につく根粒菌の独壇場で、年に2億トンもの      窒素を固定して栄養豊富な土壌を作っています。
このように肥料になる植物は「緑肥」と呼ばれます。

さて、このレポートのタイトルの「世紀の大発見」ですが、それは科学の力で            大気から窒素分を取り出すという手品のような技術の話しで、化学的に作られる化学肥料の話しです。

15世紀~17世紀の中世ヨーロッパはキリスト教が支配した「暗黒時代」と呼ばれます。      教会の権威に、社会が押しつぶされていた時代です。
この時代にあの怖ろしい「魔女狩り」などがありました。

やがて宗教の呪縛から解き放たれ、産業革命が起こり近代と云う時代に代って            ゆきました。 産業革命の少し前頃には、鉄や鉛をゴールドに変えようという錬金術の        研究が盛んに行われました。
この時に塩酸や硫酸などの化学薬剤が作られ、多くの化学用機器が開発され、実験方法などが体系化され、現代の化学の礎になりました。
特に19世紀から20世紀にかけては、神様そっちのけで、大自然の枠組みを越えて、
「人の知恵で、もう何でもできる」という「科学万能」の熱気にのぼせ上りました。

そんな中、1898年にウイリアム、クルックス卿というサーの称号を持つ大英帝国科学学会の会長がとんでもない大演説を行いました。
クルックス卿の研究の幅は広く、まさに「学際」という言葉はこの人のためにあると         言えるくらいです。
例えば、フェノールの防腐作用、タリウム元素発見 (アルミニウムの発見につながる)、
クルックス管の開発(電子の存在を示す実験)、X線の可能性を示唆、              てん菜(砂糖大根)から砂糖精製、ダイヤモンドの起源研究、                    都市の排水の研究 そしてイギリス人らしく心霊現象まで研究しました。
その大演説はこうでした。
「肥料は窒素と燐酸とカリウムであり、作物の生育には窒素が鍵を握っている。        大気中には78%もの窒素があり、この大気中の窒素を取り出せば無尽蔵に                         肥料が手に入る」。
当時、肥料は、遠く南米チリやペルーに出掛け、鳥のフンなどでできた化石「グアノ」を使っていました。このグアノ(糞)には、窒素やリンが豊富でヨーロッパの農業にとって大変な貴重品で、国家間の争奪戦がたびたび起こった程でした。
このイギリスのクルックスの大演説から13年後の1911年、当のイギリスではなく、ドイツの  二人の科学者ハーバーとボッシュが演説通り、これを実現してしまいました。           (Fritz Haber, Carl Bosch)
大気は、酸素がほとんどのように思えますが、実は78%の窒素と20%の酸素で、        その他はアルゴンと、わずかな二酸化炭素で出来ています。
ドイツの科学者のハーバーは大気に熱と圧力をかけて、最も単純な窒素化合物の        アンモニアを取り出すことに成功しました。
そしてボッシュはこの技術をBASF社に持ち込み化学肥料の工業化に成功しました。
この頃のドイツは、海軍力が劣勢で、良質なグアノの争奪戦に加われなくて、深刻な       肥料不足に苦しんでいました。
まさに「必要は発明の母」の諺(ことわざ)の通りになりました。
この頃の世界は、1914年の第一次世界大戦の後で、富国強兵のためには、            科学技術の進歩が欠かせず、各国が技術開発に躍起になった時代でした。
そんな昔のことではありません。ほんの100年前のことです。
私の祖父、祖母が子供だった頃の話です。

これから化学肥料時代が始まってゆきました。
後進国が工業化すると、最初に作る化学プラントは窒素と決まっています。
日本もそうでした。水俣病を起した工場の名は「チッソ水俣工場」でした。              正にこの化学肥料の工場だったのです。

そして現在、人類は、世界の化学工場で年間8000万トン以上もの窒素を固定するように  なっています。この量は、地球上で固定される窒素の30%に当たります。
本来、大自然になかった「人工の固定窒素分」は、環境のバランスを崩します。
土壌の酸性化、病害虫の被害が多発、川や湖や海などの富栄養化の汚染、            窒素酸化物によるオゾン層破壊、地球温暖化問題、酸性雨による森林破壊など、        エコロジーへの負の影響をしています。

大量の窒素分を土壌に与えると植物は大きく育ちますが、吸収しなかった窒素分は土壌を  酸化して、やがて微生物が生きられなくなります。(生態系の破壊)
微生物のいない土壌は固く痩せてゆきます。そこで耕作してから化学肥料を大量に入れるという悪循環の繰り返しになります。

窒素分が多い野菜は硝酸イオンが多くなり、体内で亜硝酸態窒素となって酸化して
多くの成人病の原因とも言われています。

堆肥を使って行うオーガニックの自然の野菜を育てるのが自然にも生き物にもヒトにも
安全ということです。

このレポートの更に詳しい内容は2011年9月21日の「化学飼料はパンドラの箱」でご覧いただけます。

化学肥料はパンドラの箱

平成28年2月1日
日本オーガニックコットン流通機構
宮嵜道男

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