ブラジルに行ってきました
1月31日、成田を発ち11時間飛んで、アメリカ・アトランタで乗り換え、待ち時間4時間更に飛んで8時間。日本を発ってから23時間掛けてやっとリオデジャネイロ空港に到着しました。
2万キロの彼方、地球の裏側、時差12時間と日本から最も遠い国です。この時期はキリスト教復活祭前の謝肉祭カーニバルのシーズンです。
「リオのカーニバル」が観たいと思い始めてから30年の歳月が流れ、やっとその夢を実現することが出来ました。カーニバルの写真や映像は昔から見てきましたが、やはり実物は想像をはるかに超えて、全く別物でした。何度も目が潤むほどの感動の2日間でした。
夜の9時から花火が上がってスタートし、6チームのパレードがあり、明け方5時に終わります。翌日、更に別の6チームのパレードが明け方まで繰り広げられます。
中段の観客席自由席2日間で6万5千円、決して安くない料金なのに両日とも場内は満杯でした。(指定席は一日で10万円)地元の人にとって月給分を費やしての観戦で物凄い意気込みが伝わってきます。
パレードは壮大で、700メートルを移動する、まるでオペラです。一つのチームが4000人以上、12チームで5万人。派手な衣装を纏った出演者が3階建て以上の巨大な山車を間に入れて、歌と踊りでオペラを演じます。
ブラジル人は時間を守らないとか、ラテンの人はあてにならないとか言われていますが、事この「リオのカーニバル」については特別で、見事に整然と時間通り、美しさの限りを見せてくれます。このショーをわずか1年で作り上げるブラジル人の底力と計り知れない美感覚に感動せざるをえません。
徹夜の観戦8時間があっという間に過ぎて、もっと見たい名残惜しさがあると言う、とんでもないショーで、間違いなく世界一と言えます。その場に居てその場の空気を共有することの意味の重さを改めて知りました。生きていることの意味に繋がる、「人生は体験してこそ分かる」ということを思い知りました。
さて、海外を旅してみて、よく分かることは自国の姿であり、日本のかたちです。
日本は、法律や規律がうるさいほど多く、社会のルールが色々あり自由がないとよく言われます。なんとなくそうかな、と漠然と感じてきましたが、実はそうではなく、社会の弱者を守るための有り難い仕組みであると悟りました。
この素晴らしい「リオのカーニバル」を創り上げるブラジル人ですが、観客のマナーは頗る悪いのです。何ごともわれ先で、人に譲る態度がありません。一番前の席の人たちが興奮して立ち上がります。すると見えなくなるので二列目の人たちが立ち上がり、三列目も4列目も立ち上がり、やがて全員が立ち上がります。ギュウギュウの満席の中、踊り出し、人にぶつかってもお構いなしです。力の強いものが前に前に移動してきて立ちはだかります。いざこざ口論があちこちで起きます。ガードマンが仲裁に入りますが、結局腕力の強そうな者が居座ります。体格の貧弱なわが方は、始まる3時間も前から最前列を確保してもその前に立ちはだかれて、結局彼らの股の間からのぞき見るという始末になりました。
そこはルールのない、まさに弱肉強食の世界です。これもカーニバルなんだから興奮するし、ルールはいらないと言ってみればそれまでですが、何か哀しいものを感じました。
会場係員が観客に最前列の人は立ち上がってはいけないと規制をすればいいことで、全員が等しくゆったりと腰を掛けて観覧出来る筈です。日本だったらこんな時、係員が飛んできてうるさく注意するでしょう。ショーの雰囲気を壊すほど係員が注意しているところを見て不愉快になったこともありますが、これも立場の弱い人にも公平にショーを楽しんでいただくという使命感で頑張ってくれていたんだと、つくづく悟りました。
ブラジルは砂漠もなく凍土もない広大な豊かな国土を持ちながら、未だに後進国に甘んじているのはルールを守らず、なんでもわれ先のやり方が、混乱を引き起こし、とてつもなく非効率に陥っているからなのでしょう。アメリカは同じように多民族国家ですが、強い権力を振るって法律や規則を張り巡らせたため効率が上がり、世界一の経済大国になりました。
外国人に「日本人」のイメージを聞くと必ず「勤勉で、大人しく、礼儀正しく、順法意識が高い」と言います。だから社会が安定して、弱者・強者の隔てなく公平で、余計なぶつかりあいがなく安全で、何事も効率良くゆくので世界第二の経済大国になったのです。
理想的な文明人とはどんなタイプでしょうか? それは「ルールを守り、周囲に迷惑を掛けず、自己主張をせず、与えられた使命を一生懸命に果たす人」でしょう。それはまさに日本人の典型的な態度だったのです。国は大きさや資源の豊富さだけで豊かにはなれません。そこで生きる人々の日常の態度で決まることが分かります。
帰路、飛行機はアトランタを発ってひたすら北上し、アラスカ当たりから南に下りて、日本列島を目指します。福島県いわき市上空から着陸態勢に入りいよいよ減速し、一旦海上に出て一気に成田空港滑走路に入ってゆきます。
海岸線の防風林を越えると森と畑が眼下に広がります。色々な国を旅しましたが、こんなに美しく整然と整備された田園を見たことがありません。地形を幾何学的に削り一面、畑というのではなく、自然の地形に準じて余すところなく畑として利用しています。自然を尊重し、共存してゆく精神がこんなところにも表れています。日本は立派な農業国に見えます。この光景からは食料自給率40%をきると言うのはにわかに信じられません。折角の豊かな自然環境を生かせない、豊かな人材が生かせないとなると、これは政治の貧困を思わざるを得ません。
久しぶりに家に帰って、ゆったりと風呂に入ってさっぱりしたのに何か顔がススけて見えます。変だなと思いましたが、そうでした。「真夏の国」に行って、日に焼けているのだと気付きました。日焼けが褪めてゆくのが惜しいくらい名残惜しく、思い出深い旅となりました。
2008年リオのカーニバル
■2007年のデータ
- 出演者数
- 60,000人
- 山車の数
- 96台
- 楽隊員数
- 3,600人
それぞれのチームが繰り広げるオペラ劇のテーマです。
■2月3日(日曜日)
1.Sao Clemente
- 「ポルトガル王室が海を越えてやって来て、ブラジルが出来た。」
2.Porto da Pedra
- 「100年前、地球の裏側から日本人がサンバを歌いながら、笠戸丸に乗ってやって来た。」
ブラジル人の目から見た日本の姿がデフォルメされて、面白かった。中国文化との混同の箇所は随所にあったが仕方がないことであろう。芸者、歌舞伎、相撲で始まり、アニメ文化、コンピュータテクノロジー文化で閉めた形となった。
3.Salgueiro
- 「古き良きキャリオカ(リオっ子)のカーニバルを思い出してみよう。」
4.Portela
- 「大自然への愛情・みんなで生活の仕方を見直して地球温暖化を食い止め、自然環境を回復し、あらゆる命を守ってゆこう。」
命の源・水の大切さを表現。青い地球を象徴するかのように青の印象のデコレーションだった。水の不足した枯渇の暗黒から一転、水の豊かな美しい地球の姿に変わると、観衆は大いに沸いた。
5.Mangueira
- 「レシーフェが呼んでいる。100年の伝統あるオリンダの魅惑のカーニバル・フレーボの祭典の魅力を再発見しよう。」
6.Viradouro
- 「身の毛もよだつスリルと興奮。あらゆるものは交じり合うことによって感情を引き起こす。」
■2月4日(月曜日)
7.Mocidade
- 「ポルトガルから5代目の皇帝がやってきて、ここブラジルにユートピアを造った。バビロン、ペルシャ、ローマ、ギリシャの系譜を追いながらブラジルへと繋がる。」
8.Unidos da Tijuca
- 「欲しいものは何でも手に入れる。この情熱はゴールドの輝きの如く尊い。我こそはTijucaなり、我、宝物を集め、芸術へと昇華させる。人類の欲望の歴史宿願の数々を見よ。」
9.Imperatriz
- 「よく人は“ジョンとメアリー”と呼ぶ。いやいやでもそんなもんじゃない。ジョンはジョンでもポルトガル王キング・ジョン6世のこと。メアリーはメアリーでも彼にまつわる因縁のメアリーさんたちだ。一人目は彼の狂った母親。二人目はフランスのマリーアントワネット、三人目は彼の義理のオーストリア娘マリア・レオポルジーナ。」
10.Vila Isabel
- 「肩に車輪・見よ!苦境の中ブラジルを造った誇り高き労働者たちを。植民地として地を這う苦しさの中、めげずに厳しい労働に耐えたこの姿を見よ。ブラジル人は怠け者という汚名を跳ね返せ。」
11.Grande Rio
- 「アマゾンの熱帯雨林に巨大な天然ガス田が発見された。その名はコアリ。ブラジルの富。深い緑のコアリがサプカイ(カーニバル会場の地名)にやってくる。」
12.Beija Flor
- 「時を越えて世界の中心へ夢の旅。古代の文明を訪れ、先住民族の伝統を称え、希望の航海は続いて往く。」
日本オーガニックコットン流通機構
理事長 宮嵜 道男