【コラム】ローラージンとソージン
なぜタンザニアの綿は葉ゴミが多いのか?
消費者の皆さんがインターネット上で製品評価をする専門サイトで、パノコトレーディング社のコットンパフへの評価は非常に高く、嬉しくてこれまでの開発の苦労がかえって懐かしく感じています。
「こんなにやわらかいコットンパフは、未体験で”綿”への認識が全く変わりました」というコメントをいただいたときは、有頂天になりました。
コットンパフの工場の担当者からは、NOCの綿はいつも葉ゴミが多く入っていて、除去工程でたくさんロスが出て困ると苦言をいただきます。
普通の綿の3倍のロスになる時があるそうです。
普通の綿は、機械で綿花を葉もなにも一緒に刈り取るので、当然、葉ゴミが多くなるはずです。アフリカのタンザニアの有機栽培農場は、一つ一つ、人の手で綿花だけを摘みとりますので、ゴミは少なくなるはずです。
ところが事実は逆です。
きっと農場の人たちの扱いが荒いからゴミが多いのかと思い、もっとキレイな綿を送ってくれと現地に頼んだこともありました。
ところがほとんど改善されませんでした。
これは何か別の理由があると考え、いろいろと調べてみました。
原因がわかりました。
タンザニアのオーガニックコットンは、大変珍しいローラージンを使っていたのです。
畑から摘んだ綿花には種がたくさん入っています。
というより、一つ一つの種から綿毛が生えていると言ったほうが正確な表現です。
これを分離する作業を「綿繰り」といい、重要で手間のかかる仕事です。これを英語ではジンと呼びます。
昔は手で綿毛と種を引きちぎり分けていました。今でも極々わずかですがハンドジンで分離している工場はありますが、超高級品用です。綿の繊維が傷まず、丈夫で肌触りが良い製品ができます。
やがて二本のローラーの間に綿を通して種を分けるローラージンが考案されました。
「CHURKAチュルカ」 と呼ばれ長く使われてきました。
ハンドジンより 50 ~ 100 倍の効率が上がりました。(2.5 kg / 日)その後、機械はどんどん改良されて 50 kg / 時間になりました。
1840 年にカッター付きローラージンができ、300 kg / 時間と飛躍的な効率になりました。
ローラージンは繊維を傷めませんが、短所があります。
ローラーの間を綿が通るときに一緒に葉ゴミも通過するため、どうしても葉ゴミが残るわけです。
一方 1794 年にソージンが発明されました。当時アメリカは綿花の需要が膨大な量になり、効率の良い綿繰り技術が強く求められていました。
ソージンは回転するノコギリの刃で綿毛を引きちぎり、種と綿毛を分離する方法です。
なんと 1時間に 3,000 kg もの綿を採れるとあって、この機械はあっという間に世界中に広がりました。
その間、ローラージンは当然衰退してゆきましたが、決してなくなることはありませんでした。
ELS(エクストラ・ロング・ステイプル)ヤーンいわゆる超長綿など高級な綿は、繊維を傷めないローラージンが今でも活躍しています。
ソージンは、品質よりも、効率を上げるために考え尽くされた方法です。
まず機械に掛ける前に、乾燥工程で綿の水分を飛ばします。
パサパサにして綿毛を回転刃で引きちぎり、振動やメッシュフィルターを使って葉ゴミを取り除きます。
乾燥しているので簡単に分離できるわけです。ところが綿の繊維は、乾燥すると弱くなり、品質も劣化します。
例えば、薄い布でも濡れていると手で引き裂こうとしてもなかなか破れませんが、パサパサに乾いた布は簡単にピリピリと裂けてしまいます。
このように「乾燥」は繊維へのダメージが大きいため、ソージンの技術は、ほとんど効率性と品質低下が起きないようにバランスをとるための水分調整の鬩(せめ)ぎ合いだったと言えます。
最新鋭のソージンの機械は、品質を落とさず効率を上げられるようになりましたが、ELS 綿など高級品の糸原料には使わず、今でもローラージンを使っているということは品質面では超えられないと言うことです。
繊維を傷めない手摘み綿をローラージンで品質維持し、強い化学処理ではない石鹸水と熱湯だけでゆっくりと時間をかけて脱脂加工をして出来上がるコットンパフ。
これほど手間をかけた安全で贅沢なコットンパフは他にありません。アレルギーや化学物質に過敏な方もこれなら使えるという理由が分かります。
コットンパフの工場の係りの人の苦言がもう一つあります。
同じ密度のコットンなのにオーガニックコットンは、嵩(かさ)だかでボリュームがあり、工場内のスペースをたくさんとるので困るというのです。
フワフワしたものと引き締まったものとでは、大量に作ると確かに切実な問題になるようです。
逆に言えばオーガニックコットンはこのように繊維が生きていて元気いっぱいなのです。
大自然が作り出すものは完璧なのであって、余計な手を加えず、そのまま生かして製品にすると、素晴らしいものがちゃんと出来るというオーガニックの特長がそのまま表れたコットンパフです。
そしてその違いをはっきりと感じて、支持してくれる消費者の皆さんがいることが本当に嬉しく思います。
2008 年 4 月 16 日
オーガニックコットンアドバイザー:宮嵜 道男