なぜコットンはシワになるのか?
クリーニング屋さんに出したコットンのワイシャツは、紙のようにシワもなくパリッとして戻ってきます。
洗いの後、のり剤(PVA)の入った液に浸され、乾燥してアイロンがかけられてキレイに畳まれて仕上げられます。
洗い乾燥の工程でできたシワがアイロンでどのように伸ばされるのかみてゆきましょう。
コットンの繊維は植物の繊維素(炭水化物)セルロースの分子が水素結合で結びついています。
この分子の結びつきは、洗濯などで水分を含むと簡単にほどけてバラバラの状態です。
洗濯のモミ、水切りの絞り、クシャクシャな状態で脱水機に掛けられるなど、シワを付けられたまま乾燥するとセルロースの分子同士は、元の位置ではないズレた位置に再び結合します。
このように、ズレて固定することがシワの原因です。
アイロンをかけると、熱が分子に伝わり、分子は激しく動き出します。そこでアイロンの圧力が加わることで分子はきれいに並びます。
温度が下がってもそのまま分子間で結びつき、パリッと仕上がる訳です。
ぬれたシャツの形を整え、生地をピーンと張って乾かすと細かいシワは残りますが、キレイに上がります。
シワが付きにくい繊維は、化学合成繊維や羊毛です。
これらは、分子のレベルで変形しにくく、回復力が強いためです。
シワが付きやすいのは、綿と麻です。
特に麻は、コットンと比べて繊維そのものが固いことが強いシワの原因になる訳です。
コットンの繊維は柔らかいけれども、別の理由でシワになり易い性質を持っています。
それは、構造が独特だからです。
マカロニのような中空構造になっています。
化学合成繊維も絹も麻もみんなスパゲッティのようなソリッドタイプです。
コットンの中空は乾燥しているとつぶれた状態で、水分を含むとセルロース分子が膨らみます。
洗濯乾燥の過程でできたシワが、膨らんだ状態で固定されるのでシワになる訳です。
コットンの中空構造には、吸湿性や保温性には優れていますが、シワの問題、洗いの後の縮みの問題を抱えていて、小売企業の品質管理の基準からしばしば外れてしまいます。
縮率3%以内などというように規定していますので、納品のために、いろいろと工夫するわけです。
天然素材を化学的に変質して基準を通るようにする一つの方法は、マーセライズ加工です。
コットンを高濃度のアルカリ剤(水酸化ナトリウム)に浸けると繊維は、瞬間的に引き締まります。
中空はつぶれてスパゲッティのような断面になっています。
中空構造がつぶれて平らな形の繊維は、この処理で円形の断面になるため絹のような輝きが出ます。
別名シルケット加工と呼ぶこともあります。
また別の呼び方では防シワ加工、防縮加工と呼ぶこともあります。
形態安定、ウォッシュ&ウエアーなどは、さらに効果を高めるために、アンモニアその他の薬剤を使用しています。
ただし、これらのような化学薬剤処理は、繊維にとっては、ダメージで、生地がもろくなって破れやすい、ヨレヨレな感じになり易い欠点があります。
そして本来のコットンの優れた性質や肌触りの良さを失います。
そこでさらに、柔軟剤などで肌触り感を良くする化学処理をしています。
NOC コットン認定のオーガニックコットン製品は、このような処理は一切していません。
中空構造にもそのままですので、シワ、縮みは普通に起きます。
でもいつまでも気持ちよく着られる服という評価をいただくのは、コットン本来の優れた性質をできるだけ生かした仕上げだからといえる訳です。
平成26年8月19日
NOC 宮嵜道男