ICAC国際綿花諮問委員会レポート
2011年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで第70回全体会議がありました。このたびの議論で特徴的なことは以下のことでした。
・当組織の目的を改めて再確認した。綿花産業の発展のために各国政府が協調して生産の効率性、社会性、環境保全を維持するための最適な行動を協議することを目的とするとした。
・このところの綿花価格の不安定さに対しては,当組織は無力だった。投機などによる外的不安定要因に対してこの組織がどのように対応するかの課題が残った。ただし、綿花価格が不安定だったのにも係わらずに、コットン製品市場(バリューチェーン)の動きは活発だった。
・議題の中にバイオテクノロジー、オーガニック、持続可能性、社会性(フェアトレード)の言葉が多く使われるようになった。
<タウンゼント氏の三つの提議>
当組織の専務理事のテリー・タウンゼント氏(アルゼンチン代表)は、このような相場価格の安定のために当組織ができることはないかと議論されたが、このような投機的な動きまでコントロールすることは無理だと言明した。
ただし、政府に正確な情報を継続的に提供し、最適化を協議する必要はあるとした。
以下のような3つの提案をした。
1.Cotton Solutions Center を新たに組織し、専門の調査機関を組織してはどうか。
2.オーガニックコットンを奨励するかどうか、奨励するとすれば生産の仕組みのどのような面を推し進めるべきか。
3.輸出を規制する国の政府を押し止める努力をするWTO(世界貿易機関)を支持するかどうか?
いくつかの講演の中で人気のあったのは「オーガニックコットン生産とそのコストと有益性について」であった。
講演者は、Simon Frrigno サイモン・フェリーニョ(Sustainable & Organic Farm Systems 顧問)。Jens Soth イエンス・ソス(Helvetas Oragnic Cotton Center 企画担当)。
講演の内容の要約
綿花生産の環境への影響について、農薬の問題、化学肥料の問題、水の消費の問題など誰でも改善すべきと思っている。
これを改善するにはいくつもの難問があることは確かである。
それでも、この望ましいゴールに向けてスタートするかどうかの議論をする時期ではなく今や、どのようにゴールするかの議論をすることが大事だ。
・サイモン フェリーニョ (以後、SF氏)
かつて、オーガニックコットン市場は、取るに足らない隙間産業と呼ばれていたが、今やメインストリーム(本流)に受け入れられ一定の地位を確保した。
ただし今後、大手ブランドは、ベターコットンや安くてサステナブルな素材に移行してゆく懸念もある。
・イェンス ソス(以後、JS氏)
一般のコットン産業に対してオーガニックコットンは、新しい光を届ける灯台のような役割をもち、一般のコットン生産の改善に貢献してきた。今後もその傾向は衰えることはなく、一般のコットン産業は、限りなくオーガニックコットン方式に近づくものと見られる。
5つの質問に答える
Q1.世界のオーガニック生産が直面している問題点は何か?
JS氏
やはり、生産量を増やすことだ。
その活動そのものが持続可能性農産物の手本になってゆく重要な位置にある。一般綿の化学肥料や農薬や種のコストが高くなって、従来、オーガニック生産のコスト高が、相対的に高く見えなくなってきている。2002年から行ってきた私たちのオーガニックコットンプロジェクトはこのところの綿花価格の乱高下にあっても、最小の影響で済ませられた。この対応力を今後も高めていかなければならない。
SF氏
オーガニックコットンといえども、不安定な市場動向、不穏な気象変動、耕地の確保、水の競合などの問題を抱えている。
オーガニックコットンの業界の戦略として他の繊維との明確な違い、独自性をアピールしてきたが、今後は一般綿とこと更に違うと強調するのではなく、同じコットン業界の一員として活動してゆくのがいいと思う。オーガニックコットンが、確かな根拠もなく優位性を強調するのは、コットン業界全体にとって有益ではない場合もあると思う。
Q2.これまでの数年のうちでオーガニックコットンに何か変化はあったか?また次の1~2年で変化するのは何か?
JS氏
過去に新たなプロジェクトを進めて、急速な成長があった場合、難問も一緒にもたらす結果になった。認証システムでグループ認証を許すいわゆる内部管理システムがあるが、当初数百人の農民を対象にしていたのが数千人規模になり、十分な検査ができているかどうか問題があるかもしれない。市場は、常に生産性を上げてコストダウンを図り、競争力を上げることを要求するが、持続可能性を志向すると簡単にはコストダウンが難しい。但し、長期的視点に立てば、持続可能性のテーマは避けては通れない。
SF氏
私は、オーガニックコットンに係わってから11年になるが、成長はものすごいと感じてきた。時に早過ぎ、実態が伴っていないという面が懸念されるものの、今後の成長はまだまだ続くものとみられる。
Q3.オーガニック生産の最大の問題はイールド(単位面積あたりの収穫量)が劣るということだが、伸びてゆく世界の需要に応えてゆけるか?
JS氏
私たちのオーガニックコットンプロジェクトでは生産性は一般綿と比べても見劣りすることはない。さらに小規模な農家は、改善の余地をたくさん残していて、いろんな工夫で更に生産力を伸ばす余地を残している。
SF氏
イールドを単に比較するのはどうかと考えている。たとえばアフリカの農民は輪作をしている訳で、コットンだけを見れば、統計上、確かに低く計上されるが、食物生産物も評価に入れるとそれほど悪いことはない。農場全体の生産量で見ないと本当の姿は見えてこない。
Q4.世界の綿花がすべてオーガニックに塗り換わることは考えられるか?そうではないにしても、最大でどのくらいの比率になると考えられるか?
JS氏
大半にまではいかないだろう。あくまでもエコロジーやフェアトレードの指針を示し、一般のコットンがその影響を受けて、改善してゆくということだろう。
SF氏
オーガニックコットンが需要の大半をまかなうことは考えられない。
せいぜい5~10%までだろう。
Q5.そのほか何かコメントはありますか?
JS氏
オーガニックコットンの伸びは、いずれなくなるかもしれないが、その他の麻などのオーガニック繊維の伸びは期待できる。今までこの分野への投資がなかったために、伸び率が低かったが、オーガニックコットンとミックスすることで新しい重要が起きて、むしろコットン以外のオーガニック繊維の成長があるかもしれない。
ミックス製品は、今後5~10年の間に、綿花市場の10~15%という大きなものになるかもしれない。
SF氏
これまでのオーガニックコットンの貢献は、最小の環境負荷で効率的にコットンを生産できることを証明したことと、農民を組織して貧困から脱する実例を示せたことだろう。またもうひとつ重要なことは、遺伝子組み換え技術に頼らないで伝統的な育種方法が活かせることを証明したことである。
ICAC International Cotton Advisory Committeeとは?
ICACは1939年に設立された綿花関係国政府間組織で、日本政府は、1951年に加盟している。2006年に専門委員会SEEPが発足している。
The Expert Panel on Social, Environmental and Economic Performance of Cotton Production
綿花生産に係わる社会性、環境保全、経済性を検討する専門委員会