生類憐みの令[コラム 2021 No.20]
1603年 徳川時代が始まって 80年、綱吉が五代将軍になって 7年後、稀代(きたい)の法令「生類憐みの令(しょうるいあわれみのれい)」が発布されました。
戦国の時代から天下泰平(てんかたいへい)の元禄時代に差し掛かろうという頃です。
平和が続いて心に余裕ができると、人は優しいまなざしで世の中を見直すようになるようです。
綱吉の命により、現在の中野駅周辺には「御囲(おかこい:称=犬屋敷)」という広大な捨て犬の保護施設が建造されました。
16万坪 の敷地に25坪のお犬様の宿舎建物が 290棟、459カ所の子犬養育所が整備され、総工費 20万両、今のお金で 120億円 というから、世界的にも類を見ない規模でした。
世界が激しい戦火にまみれた第二次世界大戦から、あと数年で80年を迎える現代、くしくも綱吉の時代と同じような気運が世界に現れてきています。
「生類憐みの令」は現代ではアニマルウェルフェアと呼ばれます。
2021年11月18日にフランスの上院で動物愛護法案が可決し、ペットショップでの犬猫の販売が2024年からできなくなります。
フランスでは、二人に一人がペットを飼い、毎年10万匹のペットが捨てられていて、マクロン大統領は動物愛護の強い方針を出したようです。
さらに進んで、サーカスのトラやライオン、ゾウなどの動物も、イルカやオットセーやペンギンなどのショーも動物虐待だとして2026年からできなくなる模様です。
フランス料理のフォアグラも動物虐待に当たるとして、世界各国が販売を避けるようになってきています。国際的な公式行事などでの会食のメニューからも外されるようになってきています。
さて、この動物愛護・アニマルウェルフェアの機運が進んで、とうとうそこまできたかというニュースがあります。
エビやカニなど甲殻類は、痛みを感じるのかどうか 2005年 からEFSA(欧州食品安全機関)が研究委託してきて、出た結論は痛みを感じているということになり、スイスでは、ロブスターを熱湯に入れることが禁じられました。
イタリアでは生きているエビを氷に載せているとして罰金刑が課せられました。
我が国が、エビの輸入量世界第4位という大量消費国としては、この問題を無視し続けることは難しくなるかもしれません。
伊勢エビの生け造りやエビの天ぷらは残酷だと、欧州諸国から批判されることが現実味を帯びてきました。
カニ蒲鉾(かまぼこ)のように、早急にかまぼこでエビを再現する技術が脚光を浴びる日がくるのでしょう。
それにしても、欧米諸国で牛、豚、鶏の肉食については、平行して語られていないところが滑稽(こっけい)です。
巨大な畜産産業を非難することは、政治的に収まりがつかなくなる可能性が大きく、あえて触れないようにしているのでしょうか。
哺乳動物や鶏の方が、生物としての進化が後で、エビやカニやタコ以上に苦痛を感じているはずです。
最近マスコミが、大豆からつくる人工肉クリーンミートを度々取り上げて、普及を狙っているように見えますが、くる畜肉文化への非難に備えているということでしょうか。
10年くらい前に、羊毛業界で子羊の尻に蛆(うじ)がたかるというので、ミュールシングという尻の皮を剥ぐ処置をしてきたのを止めようという運動が起きました。
オーガニックコットンとオーガニックウールを混紡する企画があって注目したことがあります。
NOC のホームページにレポートを掲載しています。
オーガニックコットンコラム:メリノウール MULESING
このようにオーガニックの運動をする者の視野には、この動物虐待への非難が含まれていることを意識しなければなりません。
動物虐待を広く見ると生物多様性の維持の問題に繋がり、SDGs の 17の目標 の中の 14 の「海の豊かさを守ろう」と、15 の「陸の豊かさも守ろう」が、生物多様性というテーマで目標設定されています。
世界の潮流は、正に「生類憐れみの令」に行きつつあるといえるかもしれません。
出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
使用記事:生類憐れみの令
ファイルの概要:中野お囲いの犬の像
画像作者:Totti撮影
2021年12月24日
日本オーガニックコットン流通機構
オーガニックコットンアドバイザー 宮嵜 道男