こんな原発もあった
テレビで盛んにLED電球を薦めるので、我が家の電球をLEDに替えようと電気店に行って買い揃えました。
すべて付け替えて、ほっとして座りテレビをつけると、まさにLEDランプの話をしていました。
LEDランプは、湿気のある浴室や密閉型の照明器具では避けるように注意しています。
「エーっ?」という事になりLEDランプの取扱説明書を読み返してみると確かに小さい字でそのように書いてありました。暗い気持ちで、立ち上がっていくつか元の電球に戻しました。
さて一般家庭の電力量は、大体2700億kwhで、そのうち照明に使われるのが380億kwhで28%にもなります。なるほど節電は照明からといえます。
ところが日本全体の総電力9400億kwhと比べると照明のための電力量はわずか4%に過ぎません。
このように我々の日常の行動というのは、マスコミの強調するところなど扱われ方で大きく左右されるものです。
マスコミが扱わないものは、存在しないも同然と云えるかも知れません。
原子力発電の世界でも、マスコミに全く扱われない傍系の方式があったのです。
昨日(6月6日、2011年)地球環境財団主催の講演会のテーマはもう一つの原発方式の「トリウム系フッ化物熔融塩燃料炉」でした。フクシマ原発の問題の最中なので会場は満杯で熱気に沸いていました。
講演者の古川和男博士は84歳で、この研究に生涯をかけてきました。
そして今まさに日本のこの難局をトリウム方式で救いたいという思いを吐露されました。
内容は専門的で難解でしたが、博士の熱意と科学者としての誇りそしてなにより日本民族への熱い思いが伝わってきました。
トリウムは、ウランの従兄弟のような放射性物質で、自然界にウランの3倍もあり、核反応しても危険なプルトニウムが出ないという大きな利点があります。
トリウム熔融塩方式は、燃料は最初から液体の状態にあり、ウランの固体のようにメルトダウンして反応が暴走するようなことがありません。
扱いが楽で装置は小型化、単純化ができ、ウランの90倍のエネルギーを生み出し、核廃棄物はウラン型の1000分の1と少量で済みます。
安全性、経済性、システムが簡素で事故が起き難いと「いいこと尽くめ」です。
アメリカでは1950年ごろから開発を始め1965年からオークリッジで実機を4年間運転し、安全が実証されました。
では何故それまでの研究が打ち切られ、原子力発電の教科書からも完全に削除され、無き物にされたのか?
1962年といえば、キューバ危機です。アメリカとソ連の核戦争は一触即発の状態まで高まりました。
米ソ冷戦時代は核兵器の開発競争の時代でもありました。核兵器による外交圧力が有効に使える時代でした。核兵器を持たないことを決めた国でさえも、対抗上、原子力発電所を持つことでバランスを保とうとしました。ウラン・プルトニウム原発はいつでも核兵器に転用が利くという暗黙の威圧にしたのです。
このような背景で、トリウムが核兵器の素のプルトニウムを取り出せないということは「欠陥?」になってしまったのです。現在の世界の原発はそのような国際間の「ちから比べ」の道具だったのです。
マスコミも国の方針に添って、このことを一切報道してこなかったため、国民は何の疑いも持つことなく「被爆国こそ核の平和利用を推進すべきだ」「原発はCO2問題を解決する具体的な発電方式だ」「日本は世界最高レベルの核技術をもつ」などと信じ込んできました。
中国科学院は、この度のフクシマ原発の惨事を見て、それまで検討してきたトリウム方式を正式に採用することを決めています。
3月11日の東日本大震災からわずか10日後の21日、イギリス・デイリー・テレグラフが中国のこの決断を伝えています。
古川博士は、ロシアやチェコでの具体的な計画に協力しています。
本来は日本で活かしたい技術ですが、日本の岩盤のように硬直した政界、財界、官界が無視している形となっています。
古川博士は、渾身の2時間の講演の最後に声を上げて言われました。
「太陽から人類が必要とするエネルギーの1万倍が降り注いでいます。これをどう利用するかが人類にとって最も大事なことです。早晩、太陽光発電も天才が現れて画期的な技術が生まれてくると思います。それまでのつなぎの発電としてトリウム方式は有効です」
予定時間を大幅に超えてなお矍鑠と姿勢を正す古川和男博士こそ日本の誇りだと感じました。
日本オーガニックコットン流通機構
理事長 宮嵜 道男