とことんオーガニックシンポジウム2015の報告
2011年の3月末頃に第一回「とことんオーガニックシンポジウム」は開催を予定していました。
ところがあの東日本大震災が起きて、3か月遅れの6月に開催されました。
オーガニックに関連する事業者、農業者、研究者、個人が一堂に集まり現状報告の場になりました。
そして4年が経った今年2015年の4月24日と25日の2日間、第2回が開催されました。
テーマは、「環境と農業―有機農業の原点がマーケットを活性化する」として大手チェーンストアー担当者からオーガニックスーパーマーケット経営者、農業経営者、地域おこしの若者たちなどが次々に登壇してその思いの丈が語られました。
日本の農業は、単位面積当たりの農薬使用量が世界で断トツに多いという報告には、ショックを受けました。
これまでオーガニックコットンを語る時、アメリカの農薬問題を持ち出してきましたが、なんと
単位面積当たりの使用量を比較してみるとビックリ、日本の方が圧倒的に多いのでした。
アメリカと比較して日本はなんと5倍、フランスの3.6倍、イギリスの4.3倍です。
中国の野菜を「毒菜」と呼んで怖がり、価格が高くても出来るだけ国産野菜を買おうという消費者の思いを裏切る形です。
確かに中国は世界一ですが日本は不名誉な第3位です。国土の広い狭いもあり、
農作物毎の比較をしないと実態を表せないという見方がありますが、だからこそ耕作面積当たりに換算している訳で、無視できないデータです。
欧米では、農産物の受粉に極めて重要な働きをするミツバチに決定的な障害を起こす可能性が高いと禁じられたネオニコチノイド系農薬の使用を日本ではお構いなしに行っています。
農薬を生産する大手化学産業の政治的な影響が及んで、国の農業政策は遺伝子組み換え農作物も含めて使用規制に対して大変緩く、最も重大な「国民の健康」を「経済発展」の次に据える失策を行っています。
農水省の担当者も登壇し、有機農業の重要性を語りましたが、省内では異端の扱いをされている方のようです。ヨーロッパ諸国のように有機農業に積極的に転換してゆくと云う政策は、日本の現政権下では到底、無理な話しのようです。
この責任は、現政権を支持している国民そして消費者の無関心であることを改めて気付かなければなりません。
印象に強く残ったのは、やはり「奇跡のリンゴ」で有名になった青森県のリンゴ農家の
木村秋則さんの講演でした。
マイクに向かうなり「皆さん、誰も見たことがなくて、信じているモノはなんですか?」と聴衆に
問い掛けました。何をいきなりと、場内はシーンと静まり返りました。
木村さんは映画などでUFOに乗せられた体験談などを飄々と語られる方なので、その答えは「霊魂」とか何か、おどろおどろしい話になるのかと思いきやニッコリ笑って「それは心です」と言いました。
農業には、「太陽」と「水」と「土」と「心・愛情」が必須だと説きました。
大自然への畏敬の念と感謝であり、大自然に対して殺虫剤、除草剤など「排除」の化学薬剤の入り込む隙はありません。
野に畑に生えている雑草こそは、その土地の主であり、そこにまかれた「種」は、よそ者なんだと云うことです。木村さんのリンゴ栽培もこの雑草の仕組みによって救われたそうです。
また、化学肥料についても、大量の窒素分が入った野菜や果物は体内に入り、亜硝酸態窒素となり毒性を発揮するという怖い話もされました。
感動した話では、農作物は土壌に育まれるという話の中で、土壌の深さごとの温度を測って
対応しているということです。
正に、土に手を置き、頬ずりしながら土の体温を知り、愛情込めて大地の体調を窺うのだそうです。
木村さんの言葉です。「土の温度を測ると土の癌が判るんです」
この方法は、効率一辺倒で、合理性を追求してきた農薬多用の近代農業の対局にある農業でした。
この他の講演を聞いてきて感じたのは、「有機農産物を買って食べると安全でおいしい」と云いますが、そんな甘っちょろい話しではありません。
「自分の健康のため」なんてちっぽけなことです。
子々孫々の幸せのために、国土の保全ために有機農産物を買わなくてはならないということです。
価格が、高い安いと品定めしている場合ではありません。
幸せな未来を望むのならば、とにかく有機農産物に切り替えて有機農業をしている生産者の皆さんを力づけて行かなくてはなりません。と本気で感じたシンポジウムでした。
平成27年4月30日 日本オーガニックコットン流通機構
宮嵜道男