コラム 2018 No.13
氏より育ち・エピジェネティクス
人間の身体は60兆個の細胞から成り、個々の
細胞には22,000個の遺伝子が人それぞれ固有の配列で整然と並んでいます。
同じ遺伝子の並び順を持つ細胞が、肝臓にあれば肝臓の、皮膚にあれば皮膚の性質を持つようになるのは、22,000個の遺伝子のうち、どの遺伝子のスイッチをオンにして、どの遺伝子のスイッチをオフにするかが制御されているからです。
このスイッチのオン・オフ制御のことを「エピジェネティクス」といいます。
スイッチが入ったり、入らなかったりは、その生物の環境に影響されるということを1942年にイギリスの生物学者コンラッド・H・ウォディングトン教授が提唱しました。その後いくつもの実証実験が行われました。
アメリカのジーン・ロビンソン教授は、気性が穏やかなイタリアミツバチとキラービーと呼ばれる強暴で人を刺す危険なアフリカナイズドミツバチを幼虫の時に、それぞれのグループの中に入れ替えて、育ちによってどれだけ変わるか実験しました。
すると見事にそのグループの環境に影響されて、「強暴なイタリアミツバチ」と「平和的なアフリカナイズドミツバチ」になりました。
このように生来の遺伝子の性質よりも環境の影響を強く発現することがわかりました。
オーストラリアのアデレード大学・ロビンソン研究所のトッド・フルストン博士がマウスを使って肥満の遺伝の可能性を調べました。20匹の雄のマウスを10匹づつ分けて10週間、高脂肪食を与えるグループと普通食のグループと観察してみました。結果は、高脂肪グループの体脂肪が、普通食グループに対して21%増えました。
そこで、高脂肪マウスと普通マウスを交配させ観察し、更に孫世代で肥満率がどれだけ出るか見てみるとなんと67%も肥満率が高まっていました。
2代にわたって肥満が伝達されるという結果になりました。
アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のスティーヴ・コール博士は、ヒトの深層にある思いが、免疫細胞に影響して病気を起こす可能性を報告しています。社交的な人のグループと孤立感の強い性格の人のグループに分けて、白血球の遺伝子を解析してみると大きな違いがあることが判りました。
孤立感が強いグループは炎症に係る遺伝子が強く発現し、抗体や抗ウイルス反応に係る遺伝子は発現が弱いという傾向がありました。
ただ人間の場合は孤立感といっても、単純に社会的に孤立しているということではなく、例えにぎやかな環境に居ても孤独を感じるという主観的な感情が体に影響するというものです。
ヒトの細胞は、刻々と生まれ、刻々と滅んで、その間遺伝子情報は書き写されて行きます。その転写の過程でその時の環境や心持ちによって遺伝子のスイッチがオン・オフされてゆくとなれば、日常の心理状態が健康にとって大事なことが判ります。
心の持ち方・ストレスの状態の他に、老化、慢性炎症、ウイルス感染、化学物質、喫煙なども誘因となりエピジェネティクス・オンオフ誤動作が起こるとされております。
以上のような遺伝子の働きを知った上で丈夫な身体を作るためには、やはり食べることが重要です。日々の食事は、筋肉や皮膚などの組織をつくるのはもちろんのこと、精神の安定やストレスへの対応にも密接に関わっています。
ストレスが原因で病気になった人の食生活は、偏食や不規則な食事、欠食、小食といった傾向があります。食事は1日3回、栄養バランスを考えて適量を摂ることが大事です。食欲の秋、どうぞ気持ちを明るく持って、おいしく感じるものを程ほど食べて、厳しい冬に向かって強い体を作ってゆきましょう。
・ストレスに負けない身体をつくるために必要な栄養素
◎精神や神経の安定 :ビタミンB群、ビタミンC
◎副腎皮質ホルモンの合成を促す :ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、たんぱく質
◎神経の興奮を抑える :カルシウム・マグネシウム
◎自律神経を調整する :ビタミンE
◎免疫力を高める :ビタミンD
◎活性酸素を除去する :ビタミンC
・それぞれのビタミンを豊富に含んでいる食べ物
ビタミンB1:うなぎ、豚肉、たらこ、落花生、玄米、枝豆、こんぶ、小麦麦芽
ビタミンB2:牛・豚・鶏のレバー、牛乳、さば、うなぎ、納豆、卵
ビタミンC :ピーマン、パセリ、芽キャベツ、ブロッコリー、レモン、ゆず、柿、いちご、じゃがいも
ビタミンD :しらす干し、いわし、きくらげ、さんま、鮭、干ししいたけ、いくら、うなぎ
カルシウム :牛乳・ヨーグルト、チーズ、干しえび、しらす干し、ひじき、油揚げ、ししゃも、いわしの丸干し
文責:日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男
2017/10/12