コラム 2018 No.19

大作曲家が愛したネムネムごろた

歌謡曲「わかれの一本杉」「東京だよ おっかさん」「王将」「みだれ髪」「兄弟船」
「矢切の渡し」などは、特に覚えようとした訳ではないのに頭の中にはっきりと残っています。これらの名曲は船村徹さんの作品で、生涯で5,000曲以上もの作曲をして昨年2月16日に84歳でお亡くなりになりました。

その船村徹さんが、ずっとそばにおいて可愛がっていたのが、パノコトレーディングが製造販売していたオーガニックコットンの「ネムネムごろた」でした。

今年の2月24日の読売新聞に奥様が思い出の遺品というコラム記事でこのネムネムごろたについて語っています。
船村さんは、車で移動する時もこのごろたを連れ出したそうで添付された写真には後部座席にどっしりとしたネムネムごろたの姿があります。
太った猫のネムネムごろたは、船村さんから「ブーちゃん」という愛称で呼ばれていまし た。
ネムネムごろたが誕生するまでには、産みの苦しみがありました。
オーガニックコットンの販売を始めて1年目くらいに大手の通販会社との縁が出来て,オーガニックコットンを使った商品の企画が始まりました。
その結果、座布団に決まりました。ユニークさが求められて中折れし易く、ごろ寝の時には “枕” になる座布団ということになりました。

その名も「ごろ寝座布団」

生産予定は2500個で、原綿は3トン必要になり、アメリカからオーガニック綿を輸入しました。

掲載の写真には、「ガチョーン」で有名なコメディアン谷敬さんが起用されました。

人気の谷敬さんがごろりと二つ折りの座布団に寝転がってニコッと笑っている誌面は魅力的で、
3トンの原綿でも足りなくなるのではないかとヒヤヒヤしたものでした。
販売が始まってみると意外や意外、売り上げが伸びず即座に中止となりました。

さあ大量に残った綿をどうするのかという難問にぶち当たりました。寝ても覚めても綿の山が頭から離れませんでした。
丁度その頃、アトピーアレルギーの子供さんを持つお母さんから電話があって、
「可愛いぬいぐるみを息子に買ってあげたんですけど、抱いて寝たら翌日アトピーが悪化したんです。
オーガニックコットンのぬいぐるみはありませんか?」とのことでした。その頃は、生産していなくてお詫びをして電話を置きました。
残念な気持ちが残りました。

相変わらず、悶々と大量の綿在庫の使い道を考えていましたが、ある朝、食事をしながらテレビを見ていると栃木県日光市の観光案内の番組の中で日光東照宮の「眠り猫」が映りました。
「大量の綿」、「ぬいぐるみ」、「眠り猫」この三つのキーワードからネコ型のぬいぐるみを思いつきました。綿をたっぷり詰めて、丸々肥った猫のぬいぐるみを売れば、綿の在庫から逃れられると、それから大急ぎで開発を始めました。その経緯は、著書の「オーガニックコットン物語」の92ページから97ページで詳しく記しています。

全長55cm、体重1.3kgの超特大ぬいぐるみのネムネムごろたは、その後順調に売れて、綿を再輸入するところまでゆきました。スヤスヤと屈託なく眠り込んでいるごろたの姿を見ているだけで、不思議に心が和み、撫でてみると綿の毛の優しい手触りでトロンと眠くなると云います。

ストレスから来る不眠に悩む方々から次々と手紙や電話を頂きました。中には旅行先のお店で見かけたとか、親せきの家に遊びに行ったら、ソファーで寝そべっていたとかファンになってくれた方々から楽しそうな報告が来るようになりました。

また「テレビで加藤晴彦さん(俳優)の寝室が紹介されて、そこにごろたが寝ていました」とか「落合恵子さん(作家)が事務所で話しているテレビ番組で、後ろの棚の上にごろたが寝ていました」とかの報告もありました。

展示会でごろたを紹介していたら、皇室の方々の一団が立ち寄られて、高円宮妃久子さまが気に入られ、お買い上げとなりました。

どうしてこんなに気に入られたのでしょうか。
現代の女性たちは、痩身であることが、美しいという観念に縛られてしまっています。
そのための努力は大変なものでダイエットと名の付く商品は売れに売れています。食を抑え、サプリメントを飲み、ストレッチだ、ヨガだ、ジョギングだと涙ぐましい修行の数々です。
と云っても期待通りの効果はすぐには表れず、心は晴れません。本当はお腹一杯食べて眠りたいだけ眠ってみたいという本音に蓋をします。ごろたの姿は、まさにその押し隠した本音を堂々と楽しんでいる訳なので、見ていると癒されるのでしょう。

ネムネムごろたのように眠っている姿のぬいぐるみは、世界的にも珍しいらしく、アメリカのマガジンでも紹介されました。「人形は顔が命」で、目の表情が最も大事です。眠る眼では魅力的な表情が出せないため、そのようなぬいぐるみは世の中になかったのでしょう。
その後、ぽつぽつと眠る姿のぬいぐるみをお店で見るようになりました。ミッキーマウスの眠るぬいぐるみも通販の誌面で見かけました。

さて、このネムネムごろたは不思議な縁で繋がっています。冒頭に紹介した谷敬さんはクレージーキャッツのメンバーでした。猫の縁でした。
船村徹さんの故郷は日光今市で、東照宮の眠り猫と縁がありました。

今や空前のネコちゃんブームで、10年ぶりにネムネムごろたのリバイバルを考えたいところです。

文責: 日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男
2018/4/19