コラム 2018 No.9

種も水道も大丈夫か?

その1                                                          

先日、ロサンゼルスに住む旧友が久々に帰国して積もる話に花を咲かせました。
その中で、「おい、日本の政府は種も水道も外国資本に開放しようとしているけど大丈夫なのか?」と問いかけてきました。
新聞などで見掛けたニュースでしたが、話題として盛り上がりもなくその問題点について深く考えたこともない不明を恥じました。

調べてみて、びっくりでした。

安倍政権下の第193国会が今年の1月20日に始まり、提出法案が64本で、テロ等準備罪や長時間労働是正案等と一緒に種子法廃止、水道民営化法案が次々と成立していきました。
マスコミは、森友学園や加計学園問題、北朝鮮のミサイル威嚇の報道に熱心で、
地味な「種子法」や「水道民営化法案」等については、ほとんど話題にしてきませんでした。
世間の関心は今後も薄く、恐らくは粛々と進められ何年か後に振り返って、どうしてあんな法案を通してしまったのだろうかと後悔することになると思います。

日本は、瑞穂の国として土壌と気候に恵まれ豊かな植生を持っています。
そのため空気や水と同じように植物の種についても、あって然るべきもので特に気に留めることなく何千年と過ごしてきています。

一方、ヨーロッパにしても、アメリカにしても放っておいて作物が育つという環境ではなく常に「種」に目を凝らせ、
改良して新たな品種を作ることに腐心してきました。
江戸時代に長崎出島でオランダ商館の医師だったシーボルトは、植物標本をせっせと海外へ送り出し、
帰国の際には2,000種もの標本(種)を持ち帰っています。

またペリー率いる黒船艦隊は開国を迫る傍ら、浦賀、横浜、下田、函館に同行の植物専門家に命じて350種の植物標本を作らせました。
今でもニューヨーク植物園には保管されています。これらは、単に植物への学問的な興味から行われたわけではありません。

ノルウェーのスピッツベルゲン島には、スヴァ―ルバル世界種子貯蔵庫があり、世界中の植物の種をかき集め、冷凍保存しています。
450万種の植物種を保管する世界最大の施設です。
「種子の箱舟計画」と呼び、地球に異変が起きて最後に生き残る人々のためには植物の種は最も大切な要素と考えてのことです。
これにはマイクロソフト社のビルゲイツ氏が深く係わっています。

以上のように、西欧の人たちの植物への慧眼の確かさに驚かされます。また同時にビジネスとして捉えると植物の種を独占できれば、
世界を手中に収められるという戦略の発想が読み取れます。この世界戦略は、既に現実の社会問題として現れています。

コットンに関しては、90%以上が既にGMO遺伝子組み換えの種子になっていて、オーガニックコットンの事業の障害になっています。

アメリカ、中南米では、大豆やトウモロコシ、菜種もすでに多国籍企業によってGMOに塗り替えられてしまいました。
大豆は、1980年頃は、70%が公共の品種でしたが、8年後には10%に減って、現在は、モンサント、デュポンなどのバイオ企業4社によって80%が遺伝子組み換え種に席巻されています。米や小麦は、公的な育種として最後の牙城が守られてきましたが、モンサント社は既に小麦種子企業を買収しており、小麦も早晩遺伝子操作されてゆく可能性は高くなってきました。

1991年にできた「植物の新品種保護に関する国際条約」UPOが、バイオ企業に都合のいいように改正されたことがあって、中南米やアフリカでは農民に不利に働き、国際農民組織ビア・カンペシーナが「モンサント法」だとして猛烈に反発しています。

さて、日本で、主要農産物種子法いわゆる「種子法」がこの3月に廃止された問題について考えてみたいと思います。
そもそも、この法律は、第二次世界大戦終結のサンフランシスコ講和条約が発効された翌月の1952年5月に制定されました。
苦しい食料難を経て、まずは食料確保のためには種子の扱いが重要だとしてこの「種子法」を成立させました。
それは、日本再建に奮い立った当時の政治家の責任感が凝縮したものでした。

これに対して、現在の政府・農林省は、種の開発について民間の活力、意欲を高めたい、TPPなどの国際化を進める中で阻害要因が多いとして廃止を決定してしまいました。なんというお粗末な政治判断でしょうか。民間活力というと聞こえがいいかもしれませんが、要はビジネス化であり、冷徹な損得勘定の中に日本人の命綱の「種子」の扱いを解放するということです。ビジネスの世界は効率よく利益をあげることが正義で、究極的には他の追従を許さず、独占して高値で売り、極大の利益を目指します。結局一般の消費者は、選択の余地なく重い負担に苦しむことになります。

政府は、利益を求めることが目的ではなく国民の安全や利便に寄り添い、不足分は税という形で補填し、公共・共助の考え方を進める機関です。
この法律の廃止で、種子の私有化が進み、特許問題も含めて極めて戦略的に扱われ遺伝子組み換え種子が蔓延してゆくでしょう。

スウェーデンの種子研究者で、種子貯蔵庫の創設に注力したベント・スコウマン氏は「種子が消えれば食べ物も消える。そして君も・・・」と警告しています。

その2へ続く

文責:日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男
2017/9/6

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