ファッション産業が知るべき水について10のこと

汚染写真

H&Mが協力している情報サイトthe guardianの中のSustainable fashionの記事より

ファストファッション(fast fashion)の業界では、大手になるほど、社会的な責任を果たさざるを得ない時代になってきています。

何億円もの宣伝広告活動の費用が一つの不祥事で消えるという時代です。

水というテーマで環境保全を考える記事がありましたので、翻訳しました。

普段、気付いていないと思いますが、人類が日常で使える水の量は、地球上の水のわずか 3%にも満たない量しかありません。

何をするにも水資源は、極めてだいじな要素です。

※この記事では使える水は、 3%としていますが、一般的には海水が 97.5%、南極北極の氷が 1.75%、人間が使える河川、湖沼の表面水 0.02%で地下水を入れても 0.8%しかありません。

ファッション産業が共通して抱える問題の一つとして水があり、その水のサスティナブルについて関心が高まっています。

実際に気候変動の問題や水資源の争奪の問題が起きてきています。

※「サスティナブル」は、一般的な翻訳では「持続可能性」ですが、言い換えれば 「いのち存続可能性」ということで、この地球上の生き物がこの先 100年、1000年、現在と同じように生き永らえるように自然環境を整えるという考え方です。

1.水の問題はサスティナブルの中心的なテーマである

産業界、関連機関のリーダー達は、国連で2030年までの目標を決めました。

それは、SDGs(Sustainable Development Goals)持続可能性な開発の目標です。(2015年9月25日採択)

17の目標の中に「安全な水」のテーマが掲げられています。

以下、17項目

  1. 「安全な水とトイレを世界中に」
  2. 「貧困をなくそう」
  3. 「飢餓をゼロに」
  4. 「すべての人に健康と福祉を」
  5. 「質の高い教育をみんなに」
  6. 「男女同権を実現しよう」
  7. 「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」
  8. 「働きがいも経済成長も」
  9. 「産業と技術革新の基盤を作ろう」
  10. 「人や国の格差をなくそう」
  11. 「住み続けられる街づくりを」
  12. 「つくる責任・使う責任」
  13. 「気候変動に具体的な対策を」
  14. 「海の豊かさを守ろう」
  15. 「陸の豊かさを守ろう」
  16. 「平和と公正すべての人に」
  17. 「パートナーシップで目標を達成しよう」

2.Peak water(ピークウォーター・水の使用限界点)が近づいている

ファッション業界では、綿花栽培のかんがい水に始まり、生地などの染めや仕上げで大量の水を使っている。

2007年から2025年までに途上国では50%、先進国では、18%の水需要の増加がある。

この有限の資源に対して前向きに改善を考え始めている。

バングラデシュの Cleaner Textile社はバイヤーの人々の協力を得て、繊維の染色、仕上げのプロセスの改善に取り組んでいる。

中国の Better Mill Initiative社は、水とエネルギーと化学汚染の問題に取り組んでいる。

ファッションブランドの SOLIDARIDAD、H&M、C&A、PRIMARK、NEW LOOK などが、支持している。

スウェーデンでは、SIWI(Stockholm International Water Institute)と 30のファッションブランドが協力して、水を使うプロセスでの水質汚染の実態を研究して新たなガイドラインを作りサスティナブルなプロセスを目指している。

水質に関する専門の機関の CDPの Cate Lamb氏は、産業界の経営者の意識は押しなべてまだ低いと言っている。

3.大手ファッションでウォーターフットプリントを採用し始めている

※水のフットプリント(water footprint)とは、生産活動で使われる水の総量の数値、例えば1杯のコーヒーの数値は、140リットルという、コーヒー豆の栽培から製品生産プロセスで水が使われ、そのフットプリント(足跡)をたどって合算した数値です。

CDP’s Global Water Report 2013によると、500の国際的な企業の60%が、水による損害を体験していた。

例えば、2011年はタイでは洪水があって、Intel社は、1,100億円の損害が出た。

また一方、GAPはテキサスの干ばつで綿花が不作で予定していた収益の22%下降した。

水に関してはエネルギーコスト、廃水、化学薬剤処理コストが大きい。

Solidaridad’s Senior Programme の責任者の Marieke Weerdesteijn氏は、「布地の染色など大量に使った水は当然廃水の処理施設が整っていなければならない。そのコストを払った代償として必ず利益になる」と言った。

世界自然保護基金(WWF)のLaila Petrie氏は、「ビジネスにおいて工場排水の水質を高く維持することは損得の問題ではない。ブランドの価値を維持するという意味で免許のような意味がある」と言った。

4.水問題は、競争ではなく協力が必要

BEPI(Business Environmental Performance Initiative)の役員のStuart Harker氏は、「水の問題はファッションブランドの共通のリスクの問題だ。これに取り組む企業はそのこと自体で企業のイメージアップになり、メリットだ」と言った。

水を使う工場ラインは、各地集中しているので、各社が協力して川の汚染が起きないように管理することができる。

5.おおかたの意見では生産ラインは、G20 の各国に移動するより現状に留まるべき

大規模な繊維の工場は、水の豊富なリサイクル設備のある再生エネルギーの整った地方に移動すべきだという議論がある。

H&M社の水管理の責任者のFelix Ockborn氏は、この問題は、「もっと大きく全体的な視点で見なくては」と言っている。

繊維産業は、これまでに多くの発展途上国の経済発展として貢献してきた。

いくつかの小規模なブランドはG20(主に欧米各国)の国々に戻ってきている。

大手のブランドも同じように自国に戻れば、発展途上の労働者にとっては、困ることでそのブランドがしてきた社会的な意義もなくなる。

6.豊富な水を必要なコットン生産の解決法

世界自然保護基金によると一枚のTシャツを作るのに必要な水の量は、2,700リットルにもなるという。

BCI(Better Cotton Initiative)は、農民への教育によって水も農薬も減らして行けると明言している。

NOVOZYMES社の国際マーケティングの責任者Peter Faaborg氏は、酵素の活用で従来のコットン製品のプロセスのままで25%の水の節約ができると言った。

MADE-BY(Environmental Benchmark for fibers)という繊維製品の環境適応性のインデックスがあり、これでコットンは、低いランクの「E」に評価されている。

このインデックスを提供している機関のコンサルタントのArial Kraten氏は、コットンをCRAiLARにすれば麻と同じクラスBに昇格できると勧める。

それは最初の収穫の麻に行う特別な方法であるが、これをコットンでも行うこととしている。

CRAiLARでは、紡績の際に特別な酵素のプロセスを使う。

7.水の再生は、技術的に可能だが、なかなか大規模化が難しい

水の再生で、残留する化学物質の問題は残る。

Levi’sは、最近、とある中国の販売会社へ10万着のジーンズを納品する際に100%再生の水だけで処理できた。

水の環境基準に沿うためには、短時間でいくつもの判断をする必要がある。

Weerdesteijin氏は、対応できるのは、バングラデシュよりも中国の方である。

なぜなら政府が水の再生に対してのポリシーがあるからである。

8.染色の水の汚染管理は、日常的な当たり前なことから始まる。

簡単で低コストで水を節約するには、ホースにノズルをつけることから始まる。

これだけでたくさんの水もエネルギーも節約できる。

現状のプロセスがとりあえず、サスティナブルに配慮があったとしたら、次に考える。

対策は、新たに酵素を使ってみるとか、固着剤の性能を見直すとか、低塩基性の染材に切る替えるなどの方法である。

9.ファッションブランドが率先してサスティナブルの水対策をすると工場の意識が高くなる。

工場に対してサスティナブルな水の使い方を要求すればそれに呼応して、パイプラインの水の漏れを直したり、不具合部分を修理するなど工場そのもののパフォーマンスを向上させる。

さらに、それまで無駄に熱を廃棄していましたが、熱水のラインの湯を家庭用に活用したりと地域全体のサスティナブル対策に貢献できる。

10 改革の力は、消費者が持っている。

ファッションにおける水資源の節約というテーマを見ると意外に大きい要素は家庭にある。

水の適切な使い方についての指針を提唱している Clever CareとHiggs Index (Sustainable Apparel Coalition)は、消費者の気付きと実用的な方法が示されることでウォーターフットプリントの値を小さくしていく。

洗う代わりに干してみる、より洗浄力が良い洗剤に替えるなど効率のいい洗濯法を広め、また、不要な衣服をリサイクルして生活をシンプルにすることもよい。

世界自然保護基金のPetrie氏は、お気に入りのブランドに問い質すべき三つの質問を提示してくれた。

質問1.そのブランドのサプライチェーンの水の汚染管理についての目標はあるか?

質問2.そのブランドは、サスティナブルな繊維原料を使っているか、またはこれから移行しようとしているか?(例:一般のコットンからオーガニックのコットンへ)

質問3.河川など自然環境の保全のために、そのブランドが行っている施策は何か?

平成28年6月6日 日本オーガニックコットン流通機構 宮嵜道男

ファッション産業が知るべき水について10のこと” に対して2件のコメントがあります。

  1. 宮本 博 より:

    綿素材に、染色加工、技術開発を40年アメリカ、日本でやって来ました。貴社の御提案に同感します。
    2019年に綿素材の精練・漂白工程の新しい、システムを発表予定です。従来の十分の一程度の Carbonfootprint Water footprint削減を目標にしたものです。

    オーガニックコットンにも有効であると期待してます。今ワシントンDCで最後の確認作業をしています。
    2019年にコンタクト出きればと思います。

  2. モルグ街の黒猫 より:

    たしかにそうですね〜

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