アメリカOTAで話題の鉛問題
OTA: Organic Trade Association
アメリカのOTAメンバーの間でこのところ話題になっているのは、CPSC(Consumer Product Safety Commission)が,日用品の製品に含まれる「鉛」の規制を強化する問題です。CPSCは米国消費者製品安全法(Consumer Product Safety Act)に基づき1973年から執務を開始した米国の独立政府機関です。
日用品が原因で起こる健康障害のリスクから消費者を保護することを目的としています。
昨年、中国製のおもちゃから、規定値以上の鉛分が検出され大きな社会問題になりました。各業界の弁護士や、ロビーストたちが、あまり厳しい規制にならないように、また安全が証明されているもののは検査が免除になるよう運動しています。
2月の始め頃にはどうやら法規制が始まる見通しで、議論が活発化しています。
従来の規制でも当然、鉛分は規制されてきましたが、特に12歳以下の子供を保護するという目的に沿って厳格化する方向です。CPSCは、ウール、コットン、シルク、宝石やパールなどは対象から外す意向を示しています。
米国環境健康科学研究所(NIEHS)は2006 年4月に、鉛は極微量でも有害であるという研究報告を行いました。5年間にわたる調査の結果、鉛の血中濃度が安全とされていた10μg/dl(0.01ppm)以下の子どもたちでも、知的な障害を受けているというショッキングな報告でした。 この調査はコーネル大学、シンシナティ子ども医療センター、ロチェスター大学医学校の研究者達によって行われました。
10μg/dlの鉛血中濃度をもつ子どもたちの知能指数(IQ)は、1μg/dlの子どもたちより約7ポイント低いという結果が出ました。
1970年以前は、子どもの鉛中毒は鉛の血中濃度が60μg/dlであると定義されていました。それ以来、鉛の上限は 下げられ、現在の 10μg/dlに留まってきました。
この調査ではニューヨーク州ロチェスターの172人の子どもたちに対し、各12ヶ月, 18ヶ月, 24ヶ月, 36ヶ月, 48ヶ月, 60ヶ月に鉛の血中濃度を測り、知能指数は3歳と5歳の時に測定しました。知的能力が生活環境の影響を強く受けることがあり、出生時の体重、母親の知能、所得、教育環境など慎重に勘案して判定されました。
鉛曝露について研究しているNIEHSの研究員ウォルターJ.ローガン博士が重大なポイントを指摘しています。
「このような広範囲にわたる鉛曝露による影響は、大変に憂慮すべきことである。
IQ=80以下の子どもの数が大量に増え、IQ=120以上の天分豊かな子どもの数が減少するということになる訳で、平均知能指数が僅かに下がるだけだという軽い見方は間違っていて、中身を問題にしなければならない」
日本では乳幼児用の玩具の塗料などに含まれる鉛について厚労省は、発がん性などの毒性がある他、胎児期や乳幼児期に高濃度の鉛が体内に入ると、脳の発達障害によるIQ低下や神経障害による異常行動や発育遅延などを起こすとしています。
食品衛生法は、「乳幼児が接触することにより、健康を損なう恐れがあるもの(おもちゃ)」を規制しています。
玩具の塗料などに含まれる鉛については、「鉛の毒性」として「急性毒性」「慢性毒性」「発がん性」の3点を挙げ、この内「急性毒性」として、腎尿細管障害の他、ひどい場合には急性脳症(幻覚、記憶喪失)が起るとしています。「慢性毒性」として、腎障害(腎不全)、末梢神経作用(神経伝動速度)の低下、脳の発達障害によるIQ低下を挙げています。安全とされる鉛の摂取レベル(耐容量)は微量で、体重50キロの人の場合は1日当たり約180マイクログラム(マイクロは100万分の1)、体重10キロの幼児の場合は同約36マイクログラムとしています。