コダルト・ネオテニー・プリミティブコットン
聞き慣れない単語を三つ並べました。
さて、それでは落語ではありませんが、三題話しを始めましょう。
2008年10月23日、繊研新聞に「コダルト」なる言葉が、採り上げられていました。
30歳、40歳代の中年層の消費傾向が若返り、悪くいうと幼稚化してきているのだそうです。
ビール会社は、この年代の嗜好に合わせて苦味のない甘いビール、その名もスイーツビールを売り出して昨年の2倍を超える勢いです。
かつての子供だましの駄菓子に人気が集まっていたり、ファッションの方ではゴシック・ロリータ、詰めて「ゴスロリ」の影響でこの年代の服にもフリルやレースを多用したカワイイ系が売れていて、色もベビーカラーのパステル調が好まれているようです。
成熟しているはずの年齢なのに、いつまでも若々しいとか、子供のような感性を持っているというのは、今や立派な褒め言葉になっています。
アダルトならぬ「コダルト」の登場ということになりました。
生物学の言葉で「幼形成熟」をネオテニーと言います。ギリシャ語の「若さ」Neosと「延長する」Teinoの合成語Neotenyとなります。
ネオテニーというと必ずでてくるのがウーパールーパーです。本名はアホロートルで、アホウでロートル。ちょっとムッとしますが、こちらの方が面白い名前です。姿が可愛らしく一時期すっかり人気者になって、縫いぐるみにまでなって売れていました。
ウーパールーパーは両生類のサンショウウオの仲間で、水の中で暮らす幼生の姿のまま成熟しています。実はヒトもネオテニーではないかという説があります。進化の上で系統的にも遺伝的にもヒトに最も近いのがチンパンジーです。そのチンパンジーの子供の姿は、ヒトにそっくりで、どうもヒトはチンパンジーの幼形成熟ネオテニーではないかということになりました。
1926年にアムステルダム大学の解剖学教授のルイ・ボルグは、「人間形成の問題」という本の中でこう書いています。
ヒトは、身体的発育において、性的に成熟した霊長類の胎児なのである。
動物の成長に比べてヒトの成長は、とてつもなく遅い。生まれてから成人になるのに20年もかかるわけです。
そのゆっくりした成長の時間に言葉や知性を高度に発達させてきたというのです。30億年の生物の歴史の中でめまぐるしく変わる地球環境にうまく適応しなければ生き残れません。早く成熟してしまうと、形質を元に戻せず、変化した環境の前に絶えてしまいます。ところが幼形のままだと環境に合わせて変容し進化してゆけます。ウーパールーパーは生育条件を変えるとサンショウウオ類の標準的な成体の姿に成長することも出来るのです。
人類学、解剖学の学者アシュレイ・モンタギューは著書「ネオテニー・新しい人間の進化論」の中で、言明しています。
柔軟で従順、適応的であるというネオテニーの結果、類人猿が進化的に創り直されホモサピエンスになった。
としています。
「コダルト」は、幼児化した大人現象で、一種のネオテニーであり、新しい時代変化に適応しようとする進化のプロセスなのかも知れません。
さて、最後の言葉「プリミティブコットン」は、原始的未開のコットン製品で、NOCコットンを指しています。余計な化学的加工処理をせず、生まれたままの幼形成熟ネオテニーの製品です。
いったん成熟(完成)した製品は好みの変化に合わせて変える事は出来ませんが、NOC製品は、買った方が何色にでも染めることが出来る余地を残しています。それでも、皆さんは何もせず、そのままの色を楽しんでいます。幼形つまり生成りの色というのは心地良いリラックス感をもたせてくれるし、何より肌触りが最高です。
赤ちゃんに最もよく似合う色は、スキムミルクのような綿の生成り色です。
めでたくも、幼形の赤ちゃんに話しが落ち着いたところで高座を降りましょう。
おあとがよろしいようで・・・
日本オーガニックコットン流通機構
理事長 宮嵜 道男