僕は魚を食べない[コラム 2021 No.13]
東京オリンピック、サーフィンは2021年7月27日、九十九里浜、釣ヶ崎海岸サーフィンビーチで開催されました。
アメリカ育ちの五十嵐カノア日本人代表選手が見事に銀メダルを獲得しました。
台風8号の接近で荒れた千葉の海での競技決行となりました。
普通なら遊泳禁止になるところですが、世界の一流選手にとっては、波が荒れた方がわくわくする好条件のようです。
五十嵐選手は、金メダルを目指していただけに、ブラジル選手に負けた悔しさが強く、沖から戻った波打ち際で、へたりこんでしまいました。
その後、身を正して正座して海に向かって深々とお辞儀をしました。
アメリカ育ちでも日本人の礼儀正しさと、大自然への畏敬の念を持った謙虚な若者という好印象が残りました。
授賞式の後、テントに戻ってリラックスしている五十嵐選手にインタビューがありました。
インタビュアの問いかけに答えて「悔しかったけど、海の神様に有り難うと、お礼を言いました」と素朴に語りました。
競技のサーフィンの話の後、何気ない五十嵐選手の日常の様子を訊く場面で、好きな食べ物に話がおよび、「僕は魚を食べないんです」とポロッと呟いた言葉に、 インタビュアは興味を持ったようでした。
いつも海の側に居るのなら、きっと新鮮な魚が好きという答えになるだろうとふんで訊いたのでしょう。
どうして魚を食べないのか改めて訊くと、五十嵐選手は、ウッと返事を詰まらせました。
インタビュアは二の句を待たずに「同じ海に生きるもの同士だから食べないということですかね」と話を深めようとしましたが、「はあ、そんなもんです」とサラッと答えたので、次の話題に移って行きました。
そのテレビの場面を観ていて、なんていい話なのだろう、今の若い人たちが大自然への愛着を持ち、エコロジー意識が培われて来ていると嬉しくなりました。
オーガニックコットンの普及活動を始めた20年以上前のことです。
神奈川県の湘南海岸のあるサーファーから、Tシャツを作りたいという相談があって、江ノ島にでかけました。
話を聞いてみると、サーファーにとって海は友だちで、海が汚れるのが嫌だから、海岸をクリーンにする運動をしているそうで、そのキャンペーンの一環でTシャツを企画していました。
環境の事を考えるなら、素材はオーガニックコットンでしょうということになったそうです。
その他、沼津の海岸でウミガメの産卵を守るために海岸の清掃をしている団体の若い皆さんからも相談されました。
海に係わる人たちは海の汚れに敏感で、環境保護の意識が高い人が多いように思います。
この大自然・地球に共に住む生き物の営みを尊重するところから、生物多様性の運動に繋がって行きます。
SDGs・17の目標の中の14番目で「海の豊かさを守ろう」というテーマが掲げられています。
五輪サーファーの五十嵐選手が、海の生き物を友だちと考えて海の生き物を食べないというコメントを聞いて、直ぐにアメリカに住んでいた頃の事を思い出しました。
ある時、日本の商社の方から連絡が入り、アメリカには馬がたくさんいるので、馬の肉の供給元を調べて、日本に輸入ができないか問い合わせてほしいという依頼でした。
早速、馬に詳しいアメリカ人の友人に話をすると、日本人は馬の肉を食べるのかと、ひどく軽蔑した目で訊かれました。
「馬は友だちだから、肉を食べるなんて信じられない」と言われましたので、それ以上の問いかけは止めました。
後から考えると、彼の趣味は乗馬で、自身で馬を所有するほどの入れ込みようだったのです。
ただ、馬に詳しいから、何か糸口があるかと軽く考えて訊いたのが迂闊でした。
今思い出しても、恥ずかしさで汗をかきそうです。
2021年8月13日
日本オーガニックコットン流通機構
オーガニックコットンアドバイザー 宮嵜 道男