言葉の力[コラム 2020 No.7]
言葉の力
新型コロナウィルスが世界的に蔓延してパンデミックという状態が現出しています。
日本の感染状況は、現在他国と比べて低く抑えられているものの、今後指数関数的な急激な感染拡大に進むのではないかという畏れから日本中すっかり意気消沈してしまっています。
人類の歴史には時々に疫病が現れて、時代の航行の行方を大きく転換してきました。
古代メソポタミア、古代エジプトの時代から天然痘の感染の記録があり、結核、コレラ、ペストと数多くの病原菌が猛威を振るってきました。
14世紀にヨーロッパで大流行したペストは、それ以前の十字軍遠征の時に船に紛れ込んだネズミがヨーロッパに運ばれて感染が起きました。十字軍はキリスト教徒が聖地エルサレムをイスラム教徒から奪還するための遠征でした。このペスト感染は封建制を緩め、農奴解放を起し、人間、個人の再生を表す「ルネッサンス」の時代に変わって行ったと云うことです。ペストはヨーロッパに17世紀に再来し、19世紀末には中国から広がり、日本でも大きな感染騒ぎがありました。北里柴三郎は初めてペスト菌を発見して、クマネズミに取り付いたノミが感染源である事を突き止めています。
1492年のコロンブスの新大陸発見以来、スペイン、ポルトガル、イギリスなどが大航海時代を拓き、南北アメリカへ遠征、先住民を植民化して人や物が交流しました。同時にヨーロッパの疫病も付いて回り、免疫のない先住民が感染してその犠牲の数は膨大になりました。
今日の疫病の感染速度の速さと感染地域の広大さは世界がグローバル化して、人の交流が濃密になったためで、昔とは天地の差の伝播力を見せています。
この度の「新型コロナウィルス」の名前は、国際ウイルス分類委員会ICTVが付けました。
発生が中国なので「中国ウィルス」と通称されると国際世論の上で問題があり、大急ぎで「新型コロナ」と命名した経緯があったようです。この点「スペイン風邪」のスペインは気の毒でした。1918年、第一次世界大戦の最中に酷いインフルエンザがヨーロッパで発生しました。 戦時中のことで兵の士気が落ちないように参戦各国は感染状況を過小に発表していたのに対して、当時中立国のスペインでは感染数をそのまま発表していたので一際大きい数字となり、まるで発生源のようになってしまい「スペイン風邪」という不名誉な呼ばれ方になってしまいました。 この疫病の被害は、破格で当時の世界人口の4分の一の5億人が感染し4,000万人以上の死亡者がありました。日本でも2,300万人が感染して38万人もの犠牲者を出しました。
コロナは、皆既日食の時に太陽の周りに輝く光(太陽大気の最外層)のことでラテン語の王冠を意味します。コロナウィルスの表面の沢山の突起が王冠に似ていることからこう呼ばれるようになりました。SARSウィルスもコロナウィルスの一種で、この度のコロナウィルスはこれまでにないタイプであることから「新型」となりました。
宿敵の新型コロナウィルスは、世界の人々に恐怖をもたらし、経済をめちゃくちゃにしていますが、人々は協力して最大限の英知を絞って乗り越えて行くと信じます。
自然環境そっちのけで全て経済優先、利権優先、自国ファーストの風潮の絶頂期にこのウィルスがやって来ました。この機会を得て人間生命優先の「ルネッサンス」の時代の切っ掛けにしなければなりません。
・人の生命が何よりも優先されるという当たり前の事実に思い知らされています。
・ウィルスには国境の見境はなく、各国は協力することの大切さを学びます。
・架空の脅威を想定しての軍事力を増強している場合ではないことを学びます。
・子供、弱者、高齢者への福祉は経済の足枷として削減する対象ではなく、総体としての命の尊厳であることを学びます。
・国民の安全、健康が最優先事項であることを学びます。
・自然環境と上手に折り合いをつける智恵・オーガニックな国家への変容を学びます。
2011年に起こった東日本大震災では歴史的な被害がありました。
いくつもの励ましの言葉がありました。その中で最も心に響いた新聞広告がありました。
瓦礫の山をバックに再建の作業に励む若者が腕を振り挙げる写真があってそこにあった
一言です。「もっといい街にしてやる!」
東京オリンピック・パラリンピック2020は新型コロナウイルスの被害を避けて延期となりました。IOC国際オリンピック委員会の会長のトーマス・バッハ氏からのメッセージは東京オリンピックの意味合いを一層豊かに変える力がありました。正に「言葉の力」です。
「我々は長いトンネルの中を歩んでいるが、その向こうに見える光を世界中の人々が信じて
協力し合って、このオリンピックをみんなで乗り切った事の祝いの場でもあることを示そう」
文責:日本オーガニックコットン流通機構
顧問 宮嵜道男 4.1.2020