プライスラインは23,000円
4月2日から東京ビッグサイトでファッションワールド東京2014が始まりました。その基調講演会が、朝10時から始まりました。会場入り口は、長蛇の列で収容人数1000人の国際会議場で立ち見が数十名出るという盛況振りで、それでも溢れて別の会場で大型スクリーンを使って講演を聞くという形になりました。講演の題目は、「ファッションにおける今後の価値創造について」。講演者は三越伊勢丹ホールディングス社長の大西 洋氏でした。
ファッション業界でも特に衣料分野の伸びが芳しくなく、どっちに向いて走ればいいのか判らず迷っている業界人がこんなにいるのかと驚くばかりです。消費者の購買心理の変化は早くなってどのように対応したらよいか、更に先回りして需要を誘導して待ち構える形で実績につなげてゆくにはどうしたらよいか課題は沢山ある訳です。この講演でズバリその答えを聞ける訳でもありませんが、その片鱗、臭いだけでも嗅いでみたいという会場の切実感を感じました。
大西氏は、昨年の三越伊勢丹新宿店のリニューアルの成功物語を語りながらそのエッセンスを披露されました。観念的に戦略を組み立てるのではなく、蓄積したデータをベースに論理的に絵を描き、社内で周知徹底したのが良い結果になったようです。
その中で印象的だったのは、プライスラインの話でした。
プライスラインの考え方は、その店の個性を決める戦略だと云われています。例えば婦人服の場合、プライスラインは、商圏、立地、ターゲットの顧客、商品の構成などを総合的に見て決めます。従来のプライゾーンの考え方は、幅があるだけに輪郭がはっきりしません。これに対してはっきりと自分のお店のお客様が買いやすく、納得頂けるというプライスを決め込み、あとはそのラインを中心に上、下のゾーンを設定するという方法です。
三越伊勢丹新宿店のプライスラインは、23,000円と設定して、このラインの商品の充実をして、功を奏したようです。
今日の消費者は、価値と価格のバランスについて敏感で、所得の高い低いに関係なく、買う意義があると感じれば、多少無理してでも高額品をあっさりと買います。
価値には、「相対的な価値」と「絶対的な価値」があり、百貨店として大事なのは「絶対的価値」と言明していました。
従来は、多分に競合先との相対価値を求め、価格、品質、機能の競争に明け暮れました。
「絶対的な価値」では、人の心を豊かにする本質的な価値を持っているか、唯一無二の価値があるか、その商品やサービスが感動を与えるレベルまで高められるか、という事です。
そのために、この百貨店では、店員を「スタイリスト」と呼んで接客のレベルアップを図る一方で、待遇面や報奨に気を配り、モチベーションアップに努めています。
また、スタイリストがくたびれた顔で接客することのないよう、他の百貨店に先駆けて営業時間を短縮する計画などしています。確実に見えてきたターゲットは、シニア層、外国人旅行者、そして働く女性で、「安心・安全」、「歴史的な価値」、「文化的芸術的な価値」「環境配慮、自然の価値の尊重」そして日本の伝統、技術の価値の再認識がポイントであると云われました。
現在、海外ブランドの雑貨関係が60~70%の売り上げを占めていますが、これからは、日本の優れた技術と新しい感覚のデザインを組み合わせてオリジナルな商品に力を入れてゆくそうです。
それを「ジャパンラグジュアリーの創造」という言葉で表されました。
どこにでもある金太郎飴のような海外ブランド品からメイド・イン・ジャパンに舵を切る考え方に痛く共感しました。
大西社長の話を聞いていると、これからの価値ある商品の持つ素質は、正にオーガニックコットンにあると思いました。
環境面、安心安全、そしてフェアトレードのような社会的な貢献はどれも「絶対的価値」で、シニア層やキャリアを積む女性たちの間に確実に浸透し始めているからです。
平成26年4月3日 NOC 宮崎道男