なぜ学校か?[コラム 2020 No.22]
子供は7歳になったら学校に行く、というのが当たり前の社会に住んでいると驚きますが、世界の発展途上国では未だ6,700万人もの子供たちが、学校で学ぶ機会を与えられていません。
NOCグループへのオーガニックコットンの供給元のbioReプロジェクトでは、農村の生活支援の基金の中で子弟のための教育費が大きく占めています。
いの一番に発展途上の国の子供たちに教育を受けさせる、その意義とは何かを考えてみました。
リベラルアーツという言葉 Liberal Artsは、紀元前8世紀のギリシャ、ローマ時代にあった教養の考え方で現代の教育の源流と云えます。
リベラルには自由主義、進歩主義の意味が込められていて、人として持つべき教養は人を「自由」にすることを意味しています。
更に人間としてより良く生きて行くための「知」のアーツ、技法を学ぶ事といえます。
大勢の人たちがいっているからとか、権力のある者が云っているからと鵜呑みにせず、何が正しいか自分で考え、自主的に行動できる人に導くことが教育の原点です。
よりよい人生を歩むためには、誰にも支配されない「自由人」であらねばなりません。そのために広い視野をもって多様な見方ができるように学習します。
貧困を抱える国は、どうして人口が増えるのか?
と云う問いに見事に答えているのは歴史家のローレンス・ストーンの考察です。
1640年代のイギリスで清教徒革命が起こりました。清教徒革命は、それまでイギリスの絶対王政による国教会の強制に対して清教徒が内乱を起こし、1649年に王政が倒れて共和政が成立した革命です。
まさにこの時「男子の識字率」が50%を超えていました。
そしてその前後の出世率を重ねてみるとはっきりと減少していたという事実に気付きました。
識字率が上がると、政治的な変動「革命」が起こりやすくなり、出生率は下がる、と云う法則を見出したのです。
更に女性の識字率が上がると出生率は更にグンと低下することも解っています。
読み書きができると、知識を取り入れ解釈してより良く生きたいという意識が芽生えるのです。
アフリカやインドなど、人口が多いから貧困になるのではなく、貧困で教育の機会がないから人に支配され望まない出産をさせられるということが真実です。
貧困の子供たちが日本で云う「読み書き算盤」の教育を受けられれば、人間として何が正しく何が悪いかを判断でき、より良く生きるためには何をすれば良いのか考えます。
人と人とのコミュニケーション能力が付き、分担したり協力したりして合理的に考えられ、多くの知識が蓄えられ、高度な「知恵」を発揮できるようになります。
人は言語を持つからこそ人間として生きてゆけます。周囲のあらゆる物や事に名前を付け、概念として定着します。名前の付かないものは、抽象概念でしか捉えられないので、長く記憶することができません。
意識し思うことも全て言語化していますので、言葉を学ばないと思考ができないことになります。
動物は言語を持たないので、本能の世界だけで生きている訳です。価値観とか思考で高められた記憶などはなく、時間の観念さえ持ちません。
言葉だけで成り立っている未開人の思考力は、どうしても単純化されたものに 留まり、力の強い者につき従うことになります。
「読み書き算盤」ができるようになれば、自立し自分の未来を選べるようになり、自らの特性を高められます。
男性、女性がそれぞれを認め合い、合意のもと子供を作るとなれば、生活条件に合わせて抑制的になるので人口は低下していき、結果的に貧困から脱して行くことができます。
子供の頃を振り返ってみると、指示命令にうるさい先生が嫌で、時間に縛られるのが嫌で、勉強が嫌いで、いっその事、学校が火事にでもなって無くなればいいのにと
思っていました。それは、教育が当たり前に受けられる国にたまたま産まれた幸運の上での浅はかな考えでした。
オーガニックコットンの生産によって、インドやタンザニアの貧困地域の農村の 人たちを救済しようというbioReプロジェクトは、最初から子供たちの教育を重要な位置に置いて、次々と学校を作りました。
長期に亘ってこの事業を続けて行くには、自らが考え、発展させて行ける人々が不可欠な事を認識していたからなのです。
2020年12月9日
日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男