対極の価値観[コラム 2021 No.08]
こちらのコラムは NOC 会員向けに発信された内容の一部抜粋です。
もう10年くらい前になるでしょうか、新聞の記事にスウェーデンのアパレル企業が1,000トンのオーガニックコットンを買い入れたとあって、とても驚きました。
1,000トンといえば、当時NOCグループが年間に扱う200トンの5倍の規模です。
今回はアプローチの違いについて考えてみたいと思います。
大陸型の欧米人は常にグローバルでグロスな発想があります。
対して日本人は、島国型でローカルでネットな発想といえるでしょう。
ネットとは、インターネットの事ではなく、正味、実質、純度を重視するという意味です。
日本は東アジアからの離れ孤島で外敵から侵略もされず、何千年と途切れることなく濃密な文化を醸成させてきて、価値の置き方を貴族的な優美さに収斂させていったように見えます。
そして、自然崇拝アニミズムをベースに、ワビ・サビのような、出来るだけ人の作為を 感じさせない、自然体でありのままの美しさを愛でるようになりました。
日本庭園や盆栽、日本料理の神髄、幽玄な墨絵の屏風画、キズやひび割れも風景の 美として捉える陶芸。まるで神事のように白装束に身を固め、鉄を焼き叩いて叩いて 純度を究極まで上げて鋼を作り仕上げゆく日本刀。
織物、染め物の世界も優美な綴れ織りから簡素であって深淵な藍染めの階調を慈しんだりします。
世界の王族の謁見の間と云えば、どこも装飾の局地で、金銀宝飾をちりばめ、壁という壁には空白は罪だといわんばかりに飾り立てます。
これに対して日本の皇居は装飾を削ぎ、独特の優美さで天皇は世界の要人をもてなします。
サウジアラビアの副皇太子と天皇の二人が小さい丸テーブル挟んで、親しく談話している写真が公になったことがありました。
この写真を見た国々の人々の感想は、
「これこそ真のミニマリズムだ」
「金銀の装飾もなく、衝撃的な写真だ、謙虚さが美しい」
「最低限のものしか置いてないにもかかわらず、部屋から気品や美しさがあふれている」と驚きと感動の言葉が飛び交ったのでした。
足し算の美学とは対極の引き算の純粋性、本質を美と感じるのが日本の文化なのです。
その日本人が、最初にオーガニックコットンと出会ったとき、やはり純度を最重視したのでした。
一般綿とオーガニック綿、同種の繊維は一旦混ぜたらその比率を検証することはできないという繊維検査機関の見解の前に、純度は100%でなければオーガニックコットンと呼んではならないという結論に達したのでした。
さらに、製品の加工工程でも、出来るだけ化学的な加工処理をせず、天然の綿の色、風合いを残すことで、消費者の皆さんに新しい考え方の商品を提供しようという方向が決まりました。
結果として、究極的な健康安全な繊維・衣料製品が次々と開発されていきました。
当初は、染めない生成りの商品からスタートしていきました。そのため、今でも古くからオーガニックコットンを支持されている消費者の皆さんは、染めた物はオーガニックではないですよねとご質問をいただくことがあります。
現在は、ファッション製品としての要素にはどうしても色柄は重要で、草木染めやボタニカルダイ、そして安全性が確認されている範囲での染色された商品も生産されるようになりました。
そこで、間違いのない商品を流通させるために、当NOCの認定制度が重要な役目を負っているわけです。
認定につきましてはこちらをご覧ください。→ NOC認定について
時代は変わっても、オーガニックコットンに出会った時の新鮮な気持ちを忘れずに、日本人らしい感性を活かしたものづくりを続けて行くことが大事だと思います。
2021年4月13日
日本オーガニックコットン流通機構
オーガニックコットンアドバイザー 宮嵜 道男