性善説か性悪説か[コラム 2022 No.02]
2500年前、儒教の開祖孔子は、人が生来、善であるか悪であるかに関心は薄かったようです。
孔子の孫の世代になると、孟子が性善説を荀子が性悪説を唱え、さらにヒトの本質に迫りました。
GOTS が認証不正を摘発し、認証禁止を発表
性善説は、ヒトは生来、善の心を持って生まれてきていて、成長の中の環境で悪に染まることもあり、善の社会を作ることが大事だとし、荀子は、その反対にヒトは生来、ずるく悪に走るものだから、善悪をはっきりさせて罪に罰を備えなければならないと考えたようです。
孔子は、ヒトは白紙状態で生まれるものとして、その後の正しい生き方を扱い、仁・義・礼に篤く生きよと説きました。
確かに、オオカミに育てられた子供は、保護され育てられましたが、少しもヒトらしさを見せず幼くして亡くなったといいます。
さて、認定・認証というのは、「性善説に立つか性悪説に立つか」、右左のバランスをとることが大事なことで、審査を不用意に緩めたり、関連組織に代替させたり、包括的な審査方式にすると、現場で作業している人たちの感覚に甘さが出て、不正の気持ちがあちこちに芽生えることになります。
金庫に財宝を収めて、鍵を掛けないでおくのは罪です。
「鍵は正直者を正直なまま保つ」という格言が真理を突いています。
一昨年の晩秋に GOTS が、インドでオーガニックコットン認証の不正事件が起きたことを発表しました。
オーガニックコットン業界に長らく携わってきた仲間として、強い憤りを感じ、ユーザーの信頼を損ねたのではないかと、随分と心配しました。
それでも、GOTS はこれに対して正しく公表し、再発がないように自ら乗り出して対処してきたので、オーガニックコットンの業界の信頼が損なわれることなく、今日に至っています。
その経緯を簡単におさらいして、認証に向かう時の感覚を研ぎ澄ませる力にしていきたいと思います。
2020年、インドのオーガニックコットン仲介商社11社が、原綿のTC(Transaction Certificates・取引確認証)を偽造して認証申請をしていました。
GOTSは、APEDA(インド政府の農産物・加工食品輸出開発庁)が発行するTCを正式な原綿の認証資料として扱いましたが、このTCそのものが偽造されていました。
APEDAのウェブサイト上のQRコードまで偽造され、用意周到に組織立って行われていました。
偽証コットンの量は2万トンにもなり、不正行為をしたこれらの会社は、GOTS認証の取り消しと2年間の申請の拒絶と詐欺行為の詳細が公にされました。
GOTSの認証は、原綿から糸、加工、最終製品までのサプライチェーン全体を把握し、認証ライセンスを付与し、そのサプライチェーン内で製造された製品には自由にラベルを取り付けて販売に供することができるという仕組みです。
大手アパレル企業が参入を始め、取り扱いの量が急に大きくなり、原料のとりまとめや認証のための事務作業の煩雑さが重い負担となって起きた事件のようです。
当然、認証作業を請け負っているControl Union Certifications(コントロールユニオン・オランダ)やEcocert(エコサート・フランス)は、責任を問われました。
さて、ひるがえって NOC が行う認定方式は大丈夫かと心配になると思います。
そこで GOTS や Organic Content Standard(OSC・オーガニック コンテント スタンダード認証)の認証方式と NOC の認定方式の違いについて、改めて確認しておきます。
まず、考え方もやり方も根本的に異なります。
申請はそれぞれの最終製品の単位で審査していきますので、申請の度に必要書類のチェックをします。
供給元は bioRe(ビオリ)に絞り、この度のような中間的なインドの商社が介入することはありません。
輸入はパノコトレーディング社が一手に行い、輸入書類と認証書類は一括ファイルされています。パノコトレーディング社は、NOC に対して常に情報をオープンにしてあり、申請書類を偽造する場面はありません。
また、パノコトレーディング社は、オーガニックコットン以外の繊維は取り扱っていないので、一般綿と混じる可能性もありません。
輸入された原綿も綿糸も固有の番号が付与され、布地の取引の書類上にもその番号が表記され、その番号をたどれば、産地も収穫時期も認証背景もすべて明白になります。
bioRe(ビオリ)とパノコトレーディング社は一対一の関係ですから、作柄の状況、市場の動向について日頃からコミュニケーションしていて、突発的な事情が起きても無理せず協力的に対処できています。
この事件は、急速な取扱量の拡大の盛り上がりの中で、中間業者が無理にでも対応したくて、つい犯してしまった不正行為といえます。
認証手続きには無理があってはならないよい教訓です。
ウールマークやおもちゃの安全認定 ST マークなど一般的に認定は製品ごとに焦点を当てて、審査しています。サプライチェーンを包括的に審査するという方式は、大量流通に寄せた 新しい考え方で世界的にも少数派です。
以上、偽証事件と NOC の認定方式とは全く異なり、ご心配は無用であることをお知らせいたします。
2022年01月28日
日本オーガニックコットン流通機構
オーガニックコットンアドバイザー 宮嵜 道男
関連リンク
- APEDA(インド政府の農産物・加工食品輸出開発庁)
- Control Union Global
- Ecocert
- Textile Exchange Organic Content Standard認証(OCS)
https://apeda.gov.in/apedawebsite/
https://www.controlunion.com/
https://www.ecocert.com/ja-JP/home