GDPは国民の幸せ度とは無関係?[コラム 2020 No.20]

各国の経済的な活力を比較するのに国内総生産(Gross Domestic Product GDP)の数値が使われています。
アメリカがダントツの一位で、2010年までは、長らく我が国が2位でしたが、猛追してきた中国にあっさりと抜かれて3位に甘んじ、その後中国のGDPは日本の3倍近くの規模になっていきました。

ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領は世界で最も貧しい大統領と呼ばれ、自らの富には頓着せず働いた事で有名で、国連で「人間は発展のために生まれてきたのではなく、幸せになるために生まれてきた」と演説し世界を感動させました。
GDPは、国民の幸せの指標といえるでしょうか?

GDPの生い立ちをみると、そのような国民の幸福度の意図などみじんも見られません。
1940年、第二次世界大戦の最中にアメリカのルーズベルト大統領は、経済学者のサイモン クズネックの考案した国民総生産GNP Gross National Productの理論を都合良く改変して国民がとりあえず戦時下、納得し易くしたのが GDP でした。
戦費が嵩み民間経済を縮小させるという事は、支持されず不都合なことなので、本来は加えない軍事費を算入して出来るだけ総額を大きく見せるGDPを使い始めたのでした。

日本のこの2~3年のGDPは、総額の60%の民間消費と15%の民間投資と1%程度の輸出から輸入を引いた貿易黒字分、そして24%の政府支出で成り立っています。
政府の支出の中には行政の支出や福祉、公共投資と軍事費があります。
一般的に疑問に感じられるのは生産といっているのに、災害復興や保険料などマイナスにみえる費用もGDPに算入されていることです。保険料など未来のリスク補填などの比率も大きく全体の6~7%にもなっています。

国内の外国企業の稼ぎはGDPに加算され、日本企業の海外工場での稼ぎは算入されないという点も首を傾げたくなる算定方法です。
政府が闇雲に公共投資したり、軍事費を積み上げるとGDP額は大きくなります。
また人口が多いと経済規模が大きくなるので当然GDPは大きくなる訳で、中国のGDP急進はそうした理由からでした。

GDPには、インフォーマル経済といい、家事労働や奉仕活動や自給自足などお金が絡まない活動は一切加算されません。インフォーマル経済の比率は、先進国でこの比率は大体20%程度ですが、後進国になると45%にもなります。

こんな不適切な経済指標を78年間も、未だに世界中が使っているのは不可解ですが、政権側からみると、算出が容易で使い勝手がよいようです。

2012年に国連は、総合的な国家裕福度報告書IWR2012(Inclusive Wealth Report)を発表しました。
2008年のリーマンショック経済不況の際に、フランスのサルコジ大統領が「GDP指標は国民の豊かさや幸福の尺度にはなっていない」と発言して、それを国連が受け止めノーベル賞受賞級の学者をはじめ専門家を組織して報告書にまとめたのがIWR2012で、指標の根幹は 4つのテーマで算出されました。

  1. 人々の教育、技能、健康から構成される人的資本
  2. 設備、道路、港湾、ダムなど政府や企業が投資して作られた生産資本
  3. 人と人とのつながり、治安、信頼度などが経済にとって重要だとする社会関係資本
  4. 石油、石炭、天然ガス、農地、森林など経済発展に利用できる天然資本

1990年から2008年まで18年間の主要20ヶ国の国民一人当たりの金額をドルベースで算出しました。

国民一人当たりの金額をドルベースで
算出

この表を見ると、なんと日本がナンバーワンとなっています。
グラフを見ると、人的な資本の数値と生産した資本の数値が大きく、天然資本がわずかと表されています。
日本、アメリカ、カナダ、ノルウェー、オーストラリア、ドイツ、イギリス、フランス、サウジアラビア、ベネズエラの順になっています。

日本は治安が良く、宗教対立や人種対立もなく、健康長寿の程度も高く、社会の安定性や成熟度が高く、総合的に幸福度も高いと評価されています。
豊富な知的財産、テクノロジーの浸透性など、国の発展要素が高いことも示されています。
IWRの指標は今日、持続可能な開発目標SDGsとの関連づけをしてゆく方向で進められています。

こんなに嬉しくも、誇らしい指標が表わされているのに、日本の政府もマスコミもニュースとしてとりあげませんでした。
ぜひとも、教室で子供達に日本に生まれた幸せを味わい、国を愛する気持ちを持たせたいと思いますが、近隣諸国への気遣いなのか、自重を貫いているのか、自国を自虐的な角度から視る「癖」がついているようで、この報告はほとんど無視されています。
自国へのイメージや将来性に対しての国際比較アンケートの結果を見ると、日本の子供達の回答は、他国と比べていつでも自国への低い評価の結果が表われます。
由々しきことと思ってきましたが、これこそ奥ゆかしい日本人らしさというのであれば、納得するしかないのでしょうか。

2020年10月16日
日本オーガニックコットン流通機構 顧問 宮嵜道男

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