ひ弱な民主主義[コラム 2021 No.04]
テレビでアフリカの水飢饉を報じていました。
子供が水道の蛇口をひねりますが、1、2滴の水滴が垂れるだけで、カメラに向かって絶望的な目を向けました。
その後、自分は風呂に入ってザーザーと暖かいお湯をかぶりながら、なんて贅沢な事なのかと思い、アフリカの子供への申し訳なさを感じました。
当たり前の日常というものは、多くの人々の不断の努力の結果もたらされていることに気付かなければなりません。
このところ世界を眺めてみると、民主主義が後退してきて心配になります。
先のアメリカ大統領選挙で、トランプ氏が敗退して、バイデン大統領に替わりました。
そして、就任演説では新大統領は、民主主義の危機だったことを強調しました。
香港では、若い人達が奪われる民主体制に抵抗して、若い我が身を捨てる姿を痛々しく見てきました。
トルコもこのところ強権政治で民主化から遠ざかり、ミヤンマーでは、ついに軍によるクーデターが起きてしまいました。
タイでも不穏な情勢に陥り心配されています。
中東の民主化運動「アラブの春」の勢力も、すっかり萎えてしまって、エジプトでは文民政権体制を勝ち取ったものの、2013年のクーデターで軍事政権に戻り、恐怖 政治がこのところ更に強権化して市民が恐怖の日々を過ごしています。
かつての日本でも、明治から昭和にかけて、自由民権運動により民主主義の萌芽期を迎えましたが、5.15、2.26事件の軍事クーデターを経て、結局軍部の台頭を許し、破滅的な世界戦争に突入してゆきました。ドイツにしても民主的な憲法と賞賛された ワイマール憲法を持ちながら、ヒトラーのナチス独裁を許し、歴史的な悲劇を引き起こしました。
このようにみていくと、立派な憲法を作り上げても、それを守る国民の不断の努力がないと意外と簡単に壊れるものだとわかります。
「民主主義は状態ではなく行動だ」といったアメリカの国会議員の言葉は重く、日本の憲法の12条を観ても「この憲法が国民に保証する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とあり、国民は常に政権を注視し、不穏な動きが起これば、即座に立ち上がる位の覚悟を持たなくてはならないということです。
生まれてこの方、民主主義の社会にどっぷり浸かってきて、これが当たり前で、特別な有り難みを感じなくなっている自分がいます。
イギリス・エコノミスト・インテリジェンス・ユニットが民主国家の評価をしています。選挙体制、政治への参加、政治文化、市民の自由度を評価して、「民主主義達成国家」「発展途上民主主義国家」「混合政治体制国家」「独裁政治体制国家」と分類しています。
日本は堂々、民主主義達成国家として評価されています。
NOCグループの原料供給先であるインドは「発展途上民主国家」、タンザニアは「混合政治体制」に分類されています。
Swissinfo.ch を検索すると民主主義指数で各国のランキングを表わしています。
1975年から2016年までの40年間で、民主主義国家への転換は順調に進み、30% から 70% になりました。
ところがスウェーデンの調査機関 V-DeM の発表では、2019年の時点で、民主主義の国・地域は、87に減り、非民主主義の国・地域が92に増えてきて、18年ぶりにとうとう非民主国家の数が民主国家を上回るようになっているということです。
新興国で、権力を握った為政者たちにとって、民主主義体制は、面倒で鬱陶しい体制と捉え、やがて蹴飛ばして独裁化してしまうようです。
このところ、「独裁政治体制国家」の中国は、新疆ウイグル自治区の人々への弾圧を強めています。新疆は、良質な綿花の生産地で、世界の綿製品の 20% がこの地域からの恩恵があるということです。
ウイグル族数十万人が強制労働下に苦しんでいて、アメリカは、このコットンの輸入を禁じ、イケアや H&M のブランドもこぞって輸入を停止しています。
コットン製品の価格や品質や美観の良さだけで買い物する無邪気な時代は変わりつつあります。
その原料供給国の政情や、そこで働く人々の状況にも関心をもって、買い物することが大事です。
安心できる未来を迎えられるよう、我々一人一人が賢くならなければなりません。
2021年2月13日
日本オーガニックコットン流通機構
オーガニックコットンアドバイザー 宮嵜 道男