これでオーガニック農産物が広がるか?[コラム 2022 No.05]

昨年の7月にNOCのホームページに「未来のコスト」というコラムを掲載しました。

未来のコスト

その一部を抜き書きしました。


FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、確かに中国の農薬使用量は農地 1 haあたり 13 kgという世界最大級の数値ですが、実は日本も11.4 kgの農薬を使っていたのです。

ところがアメリカはずっと少なく、日本の 5分の1 しか使っていません。

ヨーロッパ諸国にいたってはどこも少なく、イギリスは日本の4分の1、ドイツ 3分の1、フランス 3分の1、スペイン 3分の1、オランダ 5分の4、デンマーク 10分の1、スウェーデン 20分の1 となっていたのです。

EUは政策により意図的に農薬を減らしています。
南米ブラジルは日本の3分の1であり、インドは日本の30分の1という少なさで目を疑いました。


国産の農産物は、世界で一番安全だと思いたいところですが、実はそうではありません。
日本は高温多湿、耕作面積が小さく、農地集約型だから害虫が出やすく、農薬散布してもすぐに雨で流されて効果が薄れるから、さらに農薬撒布(さんぷ)します。
最大の収穫効率を上げるために化学肥料をたっぷりと使わざるをえない、などと農薬を使う理由は山のようにあるのでしょう。
しかし、それはサスティナブルではないし、消費者の健康を損ねる恐れがあり、改善しなければなりません。

2021 年 9 月 18 日、都立産業貿易センターで重要な会議が開催され、NOC からは前田理事長、野倉専務理事、浅田理事が参加しました。

それは 「日本オーガニック会議」 発足のための関係者の集まりでした。
有機農業関係者、生活協同組合、農林水産省の担当者、流通関係者そしてオーガニックのコットンや化粧品関係者も参加しました。

主題は 「日本オーガニック会議 2022 年 5 月開催に向けて」で、われわれオーガニックの分野で活動する者にとって、前進する大きな転換点になる可能性を感じます。

有機農業の研究が始まり、環境庁ができたのが 1971 年ですから今年は 50 年目です。
そして、有機栽培の耕作面積は全体の 0.5 %です。国際的にも異常な遅れです。
この由々しき事態に農水省もやっと本気で動き出そうとしています。
法案を作り予算を取り、具体的に 25 %、100 万haの大目標を掲げます。
これまでとは違う意気込みを感じます。
気候変動問題、SDGs など国際的に協調していくサスティナブルな方向性が出てきた中での一貫と考えられます。
オーガニック農産物の拡大は、消費者意識の変化が起こり、コットンやコスメなどオーガニック業界で活動する分野にとっても大変有利になります。

日本の耕作面積は 1998 年 490 万ha、2015 年 449 万ha、2020 年 437 万haと減少しています。安い外国産農産物を消費者が選択すれば、日本の農業は衰退します。
食料安全保障の面から由々しき問題です。もう一度、世界一安全で美味しい日本の農産物を目指すことが必須です。

この会議で残念なのは、JA農業協同組合の関係者が参加していないことです。
農協は巨大な組織で組合員 949万人、職員 22 万 40 人という大所帯です。
日本郵政グループの職員は 21 万人とくらべても、その巨大さがわかります。
農協は農産物の流通、金融、保険共済、ガソリンスタンド、老人ホーム、病院、葬儀場まであらゆる事業を展開していて、日本の農業をがっちりと押さえ込んで、一つの牙城となっています。
当然、農業指導しながら農薬の販売も行っており、なかなか有機農業の分野に目を向けることは難しいと思われますが、ここが変わらないと本格的な変革は起きないでしょう。
ただ、農林省が主体的に動き出せば、変わらざるを得ない場面はあちこちで現れてくるでしょう。

IFOAM 理事の三好智子さんの司会進行で会議は進みました。
大切と思われる発言のいくつかを紹介します。

有機農業従事者 井村辰二郎氏
世界は持続可能な世界を目指してすべての産業がグリーンな方法にシフトしている。
EU(欧州連合)では既に、欧州グリーンディールを発足させ、農場から食卓までグリーン戦略化を進めるとしている。対して日本は有機農業の耕作面積は全体の 0.5 %という貧弱さで、もう目をつぶっている場合ではない。

全国有機農業推進協議会代表 大和田世志人氏
今、九州全域から全国に拡大している農産物の病気に 「基腐病・もとくされびょう」 がある。
2018 年にこの病害が発見されてから、既に北海道までの 20 都道府県に広がっている。
特に、連作をしていたり、土壌消毒に念を入れていた畑で起きている。
効率や農薬に頼る農業にダメージが起きている。

農林水産省農業環境対策課 嶋田光男氏
32 年前に有機農業が始まった時、有志 10 人で始まり、現在 160 人に増えた。
千葉のいすみ市では学校給食に有機米に切り替えて、勢いがついた。

農林水産省農業環境対策課 小宮英稔氏
農水省が 「みどりの食料システム戦略」 を計画している。これは有機農業を推進する計画。
そのための予算化も計画されている。研究費に 65 億円、ソフト費用として 30 億円、農業直接支払い交付金としては、25 ~ 29 億円を考えている。
現状有機農業の耕作面積が 0.5 %のところを 25 %に広げ 100 万haを目標にする。

環境省副大臣秘書官 食のサスティナビリティ担当 清家裕氏
有機農業は気候変動問題、生物多様性、廃棄物問題など将来にわたって大事な問題の解決策だと認識している。

日本有機農業研究会 理事長 魚住道郎氏
本来こういう問題は、農協から発信するものと思うが、本日も農協関係者は一人も参加していない。

全国有機農業推進協議会副理事長 下村久信氏
2022 年のはじめの通常国会でこのみどり戦略の法案が提出される。これが通れば動ける。

有限会社リーファース 代表取締役 水野葉子氏
1997 年に作吉むつみさんと日本オーガニック検査員協会を立ち上げた。
現在新たに計画しているのは、オーガニックレストラン認証。有機農業の発展に貢献できるのではないかと考えている。

全国有機農業推進協議会理事 徳江倫明氏
日本有機農業研究会が始まったのが 1971 年、環境庁ができたのも同年で、それから 50 年たっている。この会議は、3 年くらいの準備期間があってやっと実現の運びになっている。欧州オーガニック会議の活動を参考にして進めていく。その名の通り、戦略会議であり、未来に向けて目標を実現することを第一義とする。

岸田新政権が、この有機農業を次世代の日本農業の発展の鍵として重視するかどうかに、掛かっています。
農水省も具体的な執行予算を提出する運びとなっており、オーガニック業界がもう一段の進展があることを願うばかりです。

2022年03月11日
日本オーガニックコットン流通機構
オーガニックコットンアドバイザー 宮嵜 道男

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